第16話 取り引き

「じゃーなアカツキ。また会えたらよろしくな」

「お前らも、アマツキをよろしくしてくれよ。」

「もちろんよ」

宿の前で別れを告げ、アカツキは駆け出した。

朝起きるとアルハードも既に起きており、セレスの居る場所に急ぐように言われた。

場所はアドラナの都の外れの森。その中央部に大きな洞窟があると言う。

その中に、セレスが囚われていると告げられた。

アドラナは広い。故に、急がなければ日が暮れてしまう。

証拠に、森の入り口へたどり着いた頃には太陽はほぼ真上にあった。

乱れた息を整え、森に入る。

自然の香りが鼻につき、都とはまた違ったざわめきに満ちている。

『そこ真っ直ぐ。絶対に曲がらんでよかけんね』

「おう」

足を進める。

「……犯人とかは?」

『すまんち、まだわかっとらん。……ほんと申し訳なか……』

ノイズが入った。首を傾げ、アルに呼びかける。

返事はなかった。

「あれ……?」

妨害か、それとも電波が悪いのか。

どちらにせよ今はどうすることもできない。

アカツキは言われた通り、真っ直ぐ足を踏み出した。


「良く来た。待っておったぞ?」

「…セレスはどこだ」

真っ直ぐ行くと、灰色の建物があった。いかにも廃墟という風体であったが、中に入ると整備は行き届いており、花が飾られて居た。

中央の部屋に入ると、可愛らしい装いをした少女が座っていたのだ。

少女が指を振ると、板に張り付けられたセレスが現れる。

手首と足首に光の輪がしてあるが辛うじて意識はあるようだった。

「セレス!」

「……悪い、油断した……」

「何が目的だ女」

アカツキは少女を強く睨みつける。

「おお怖い怖い。まあ慌てるな。吾とて貴様らを敵にしたくはない。ただ暫し、其の力を貸してもらいたいが故じゃ。勘違いをするでない若者よ」

「それが、俺らを攻撃した理由になるとでも?」

「むぅ。……そうだな、それは悪かった。だが、そうせねば貴様は吾の話を聞かなんだろう?」

「……ああ。」

「ならば吾は間違っておらぬ。故に少し……話をする機会を作ってもよかろう。」

「…………わかった」

「うむ。」

少女は満足そうに頷く。

再び指を鳴らすと椅子が一脚現れる。

座れ、ということなのだろう。アカツキは大人しく椅子に座った。

「それで、話ってなんだ」

「探し物じゃ。」

少女が手を上に向けると、ホログラムのような映像が浮かび上がる。

それは石の欠片のようなもので、しかし虹色に輝いている。

「これは」

「詳しくは言えぬ。わかる者にはわかるが、まあそう多くは知らぬだろう。」

なんだそれ、と言いかける前にセレスが口を開いた。

「……それをどうするつもりだ?」

「なんじゃお主知っておったのか。」

「……それをどうするつもりだって聞いてんだ答えろ!」

バチ、と火花が散る。

思わずアカツキは身を縮める。セレスを縛る光輪が電撃を発したのだ。

「……別にどうもしない……とは言えぬが。ま、悪いことにはしないさ」

「……わかった。わかった、探すよ。……これ、なんなんだ?名前ぐらいいいだろ?」

少女はそれを聞いて満足そうな笑顔を浮かべる。

「封印石、じゃ。……見つけてくるまでこのじゃじゃ馬は縛っておく。なに、殺しはせん。期限も設けぬ。傷もつけるつもりはない」

「…………」

「行け」

アカツキはセレスをチラリと見、部屋を出る。

「…………封印石、か」


「封印石?あんたなんでそんなの探してるのよ」

「いろいろあって。」

「……そう。まあ知らないことはないけど。」

森を出るとアルハードと連絡が繋がった。

事情を話すが封印石のことは知らないらしかった。

情報屋失格じゃないのかとからかったりしたものの、からかっただけじゃ在りかはわからない。

しかし知っているかもしれない人物には心当たりがあった。

それが今目の前に立ち何やら金属をいじっている少女であった。

濃い桃色の癖の強い髪をふたつに結び、ゴシックなロリータを身につけた少女、アリアである。

過去に何度も世話になり、また世話をした相手であり、今では親友とも言えるほどの仲を持つ。

「封印石自体はそこまで珍しくないのよ。いえ、珍しいのだけど……ええと」

「つまり?」

「つまり、封印石となる石は珍しくないけど、それを実際に封印石として使った事例は本当に少ないわ。」

それでは手がかりも何もないだろう。求めているのはただひとつだけなのだ。幾つもあるということは、そのうちのひとつ、件の少女が求める石でなければ無効になるだろう。

「その子が求めているのはあの人のでしょうね。」

「あの人?」

「……言わない」

かちゃん、と音がしていじっていた金属が壊れる。

「………………」

「…………アリア?」

「探すの手伝うわ。ある場所は知ってる。貴女一人じゃ難しいところだし、案内してあげる」

準備してくるから待ってて、とだけ告げ、アリアは家の奥へ消えて行く。

アリアが置いていった金属を手に取り、眺める。

一体彼女は、何を作っていたのだろうか。

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