第15話

セレスが捕まる。

それは予想外すぎる出来事で、しかし事実だった。

アカツキは呆然としながらその画面を見続けた。

セレスは強い。それも、圧倒的に。

セレスに勝てる生き物など、この世にいるのだろうかというほど。

そんなセレスがこうもアッサリ捕まったのだろうか。

ならば、自分に勝てるわけが、ないのではないか。

セレスを助けることなんて……

「しっかりしい、アカツキ!」

「……えっ」

「セレスば捕まったんは珍しかけど、いくらセレスとはいえ不意を打たれちゃどうもできんち考えるやろ!きっと急に襲われたとやろ。でなきゃ、セレスが捕まるわけないやん」

「……不意打ち?」

「そうや!そして、不意打ちをせなセレスを捕まえきれんちゅーことはそげに強くなか!」

「……あ」

「行ってきいアカツキ。俺がしっかりサポートしちゃるけん!」

アカツキは小さく頷き、部屋に戻った。

セレスが行ったのはアドラナのほうだ。

アドラナとは寒い地域で、一年中雪が降る。

ひとりの巫女が治め、発展させた賑やかな都がある。

スカーフをマフラーに変え、武器であるナイフを至る所に仕込み、アルハードから通信機を受け取り、耳に嵌める。

「薄着で寒くなかと?」

「厚手に変えたんだが。それに俺は狐だぞ。狐は寒い時期にも狩りをする」

「……それは北狐が主やろうが」

「うるせえ狐は狐だ!」

アルハードと話したことで幾分か気分が晴れた。

じゃあ、行ってくる。

アカツキはそう言い、アドラナの方角に向けて足を進めた。


アドラナに着いたのは三日後の夜。

白い息を吐き、辺りを見回す。

「…アル、起きてるか」

『アカツキが起きとる時は極力起きるようにしとるよ』

「どこに行けばいい。」

『まず宿を探しい。野宿でもいいけど、最近その辺りで魔獣が出るち噂がある』

「ん」

なるほど確かに、人が居ない。理由は大方魔獣だろう。

足を進める。

宿らしいものは少ないのだろうか。

しばらく歩かなければ見つからなかった。

店に入ると、人の良さそうな女性がこちらに気づき、笑みを浮かべた。

「いらっしゃいませ。旅の人ですか?」

「ん?ん、まあ、そうだけど」

「お一人様でしょうか」

「うん」

「申し訳ありません、ただ今満室でして。……二人の女性と相部屋でもいいでしょうか?ただ今確認を取って来ましたが……」

「……相部屋」

アカツキはしばらく考えた。

相部屋か。悪いわけではないけれど、女性に迷惑をかけてしまわないだろうか。

結局、その女性たちと相部屋にすることにした。


「よっ!アンタが、アタシたちの相部屋っての?」

「こらアンリ、行儀悪いわよ」

「…………」

部屋に入って早々、声をかけられてしまった。

胡座をかき、酒と思わしきものを飲みながら、ラフな格好で手をあげる金髪の女。

それを宥める、こちらもラフな格好の茶髪の女。

金髪のほうはアンリというらしい。

「あー……まあ……俺は隅っこでいいから……」

「まーまーそう言うなって!」

アンリがアカツキに何かを投げる。

それは小さなパンで、焼きたてなのか香ばしい匂いを放つ。

「……ありがとう」

「ねえ君、名前は?えらく若いのね。」

茶髪がニコニコと優しそうな笑顔を浮かべ、話しかけてくる。

相部屋を申し出てくれたのだ。極力尽くさねば。

「アカツキ。旅……を、してるわけじゃなくて。用事があってな」

「……アカツキ?」

反応を返したのは茶髪の女性ではなく、アンリだった。

「そうか。アンタが。」

「俺を知ってんの?」

「ま、有名っちゃ有名だな」

「私達、こう見えても騎士なの。」

その言葉にはさすがに驚いた。騎士か。アマツキを知っているのだろうか。

「……アマツキちゃんは有名よ。森の奥で一人で暮らしてたっていう。」

「あのガキ、ツキがある。自覚はないだろうが、上手い具合に上司に恩を売れてる」

「……良く思ってない?」

「まさか!いい意味でもアイツは期待の新人だぜ。」

目の敵に思っちゃいないさ。心配すんな。

アンリはそう言い、アカツキの背を軽く叩いた。

「ところであんた……貴方達はどうしてここへ?」

「ああ、それはね」


「この辺りに、魔女が現れたからよ。」


魔女、というと、可愛らしいイメージがあるものの現実はそうではない。

魔女とは即ち人類悪。かつて、世に混乱を招き、人々を絶望に落とした者。

その身は不死の体であり、また老いることもない。

そして例外なく、強力な魔法の使い手であり、また、他に無い特殊な力を持つという。

現在確認されている魔女は七人。殺すことはできないため、残らず封印されているという。

御伽噺の時代、激しい抗争の末、封印されたというのが伝承だ。

「魔女ってーと。マジで言ってる?」

「さあな。まあ、アタシは魔女って噂されてる女を見つけてぶっ殺す。それだけ」

「アテでもあるのか?」

「……まあな」

「えっそうなの?」

反応したのはアカツキではなかった。

茶髪の女性。先程サラと名乗った。

アンリはその声を聞き、ばつが悪そうに視線をそらす。

「……嘘ついた」

「やっぱり!」

「…………アテがあるほうが驚きだろ」

そりゃそうだ、とアカツキは内心で笑った。

「明日は早く起きるぞサラ。アカツキはゆっくりしてけよ。」

「いや、俺も早く起きる。起きたら俺も起こしてくれ」

「ん、わかった」

さりげなく耳を触り、アルハードに音を送ると、『セレスの場所ば調べとく。通信ば切っとくけん外してもよかよ』と答えが返ってきた。

セレスは無事だろうか。死んでないといいけれど。

アカツキは自分を育ててくれたセレスの身を案じながら、眠りについた。

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