第14話 休息

「まあ慌てるな。吾とて貴様らを敵にしたくはない。ただ暫し、其の力を貸してもらいたいが故じゃ。勘違いをするでない若者よ」

「それが、俺らを攻撃した理由になるとでも?」

「むぅ。……そうだな、それは悪かった。だが、そうせねば貴様は吾の話を聞かなんだろう?」

「……ああ。」

「ならば吾は間違っておらぬ。故に少し……話をする機会を作ってもよかろう。」

「…………わかった」

「うむ。」


朝。

昨晩、レグの就職祝いに飲みすぎたせいか、少しばかり頭が痛い。二日酔いだろうか。

寝間着のままで、居間に降りる。

「あっアカツキ!おはよう!」

「うるせぇ喋んな。頭に響く……」

「未成年のくせしてあんな飲むけんそうなるとよ。はい水。こっちが薬ね」

無言のまま受け取り、アカツキは薬を飲む。

冷たい水が喉を通る感触は些か気持ちの良いものだ。

「仕事はー?」

「まだなか。働き者やねえ」

「お前はもちっと働こうぜ」

アカツキはそう言って笑い、シャワーを浴びに浴室へと向かった。


仕事でもなんでもない時に街を歩くのは気持ちがいいものだ。うん、今日は良い一日になりそう。

白いスカーフを翻し、街を闊歩する。

目指すは町外れのパン屋。有名、という訳ではないが、知る人ぞ知る、美味しいパンを売る店だ。

そして先日、レグが就職した店。

「よっ、遊びに来てやったぜー」

「あっ、いらっしゃい!」

焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂う。

パンが並び、その奥にあるカウンターからレグが駆け寄ってくる。

「…やっぱお前は真っ黒スーツよりエプロンが似合うなあ」

「家庭的ってこと?」

「ほざけ。料理はできなさそうだ」

「酷い……」

「なんか、うーん。パン焼くしか能が無いですって感じだ」

「クリティカルダメージ入った!謝って!」

ケラケラと笑い、いくつかトレーにパンを乗せ、カウンターへと運ぶ。

「えーっと、250マニーでーす」

「……340じゃねえの」

「一個オマケ。アカツキには助かったからね」

レグはそう言って笑い、自身の財布からお金を袋に入れる。

アカツキは彼に礼を言い、店を後にした。


「あっお姉ちゃん!」

「遊びに来てやったぞー」

「帰れ。騎士団はお前の暇つぶしにあるわけじゃない!」

騎士団の宿舎へと足を運び、問答無用で練習場へと進んだ。

パンの袋を上げ、笑う。

「まあそう言うなって。昼飯持ってきてやったんだぞ」

「やった!ではエノクさん僕はお先に休憩行ってますー!」

「あっこらアマツキ!おーい!!」

エノクの制止も聞かず、アマツキはスタコラサッサとアカツキに駆け寄り、手を引いて外へと出る。

「——で、来たわけですね」

「まあ、暇だったし。アルに分ける気にもならなくて」

「相変わらず扱いは酷いんですね」

「まあ、アルだからな。」

寄宿舎の庭にある大きな木の麓のベンチで、二人でパンをかじる。

側から見れば仲の良い狐姉妹だが、その職業を聞けば大体の人間が眉を顰めるだろう。

有望な新米騎士と暗殺者だ。

いくらアカツキが騎士団の依頼で暗殺をすることがあったとしても、その行為はやはり褒められたものではない。

それはわかっている。だがそれでも、止まるわけにはいかない理由がある。

「セレスさんは?」

「アドラナのほうに行くとか言ってどっか行った」

「アドラナですか。寒いのは……うーん、やっぱり苦手ですねー」

「お前のほうはどうだ。ちゃんとやれてる?」

「もちろん。今度僕も寒い地方に……アドラナとは違うんですが。寒いところに遠征なんです。行きたくないんで代わりに行ってくれません〜?」

「そういうことサラッと言えるなら大丈夫そうだな」

手袋でも差し入れしてやるよ。アカツキはそう言って笑った。

アマツキとの時間は、かけがえのない大事な時間だ。

そんなことを思いながら、アカツキはアマツキと別れた。


家に帰ったのは太陽が沈み、月が昇り始めた頃だった。

今日は一日、街をぶらぶらしていて、アルを放っておいてしまった。

拗ねたりするんだろうか、などと考えながら家のドアを開けた。

しかし、帰ってきたのは思いもよらない言葉だった。


「アカツキ!!やっと帰ってきた……!」

「……はい?」

「大変なんよ!!セレスが……!!」

ディスプレイまで慌てて連れて行かれ、言われるままに覗き込む。


そこには、石造りの牢屋と思わしき場所に、手枷と足枷、さらに猿轡までされているセレスの姿と、『狐子よ、早急に来たれり。』という文字が映し出されていた。

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