第4話 旅立ちの時

シチューのいいにおいがする。

「おはようございます。ユカリ」

おはようございます、アオ。

(寝顔見られたかな。いや、棒人間に寝顔とかあるのかな。…どうでもいいか。)

アオはお盆の上にクリームシチューを乗っけて運んできた。

アオの額当てフェテルは青空のような綺麗な青に白の刺繍が施されている。

わたしのはどんな感じだろう。生地は白だったけど…。

「君の朝ごはんですよ。どうぞ」


「…おいしそう。誰が作ったの?」

この居候アオが一人で作ったとは思えない。いただきます。…美味しい!何というコクのある味わい。私キノコ嫌いだけどこのマッシュルームは食べられる!


「アイゼです。僕も手伝いました」

アイゼって、白い服を着た、この家の主人の事だ。昨日服を貰ったんだった。

バックの隣に私の服が置いてある。その様子を見たアオは。

「ああ!着替えるんだね。はい、僕が作った額当てフェテル

「それじゃ、僕は部屋を出ているから、その間に着替えてね」


白い布はフェテルの材料になった。

白い地にピンクの刺繍。可愛いかも。それに、私、女の子だったね。

お気遣いいただきありがとうございます。


「いいねぇ!ユカリさん、似合ってるよ」

ありがと、アオ。

白い衣服は制服みたい。フェテルは肌触りも付け心地も良い。

付属のポケットには小物が三つ入りそう。何をしのばせよう?

私が様々な想定をして楽しんでいると。

「…楽しそうですね、気に入ってもらえてよかった」

アオはそう言って私に笑いかけるのだった。

アオは何でこんなに優しくしてくれるのだろう?

このフェテル、手が込んでいる。


今日は旅立ちの日だ。自分の無事を伝えるためにはこの世界で鍵となるものを見つけなければならないらしい。

旅にはしばらくの間アオが付いて来てくれるという。

「アオイ・イト、やっと居候から卒業だな」

アイゼさんが軽口を叩きながらアオを小突いた。

相変わらずこの二人の関係は面白いなあ。仲がとてもいいことが分かる。

私はアイゼが小ぶりの弓を持っていることに気付いた。

「これが気になる?」

わ!心を読まれたのかな。アイゼは純粋な笑顔だ。

…心を読まれたなんて、これこそ気のせいだったかも?

「これは、君にあげようと思って。こっちは洋風の箙〈エビラ〉。矢は二十五本入れておいた。矢の特徴をしっかり覚えてね。チャンスを見分けて的確に使うんだ」

アイゼは熱心に語ってくれたが、私にはちんぷんかんぷんだ。

とりあえず、頑張ろう。


お世話になったアイゼにお礼を言うと。

「言葉なんていらないよ。私には、お金で買えないものをくれないかな」

そう言われた。

アイゼの悲しそうな笑顔を見たからかな、この言葉には嫌な感情が

湧かなかった。

お金で、買えないもの…感謝の心かな。

私は改めて深くお辞儀して言う。笑って。

「行ってきます!」

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ラジリアの旅人たち【朝東風シリーズ外伝】 登月才媛(ノボリツキ サキ) @memobata-41

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