第3話 記憶をさがすこと

アオは淡々とした口調で説明を始めた。

泉から生まれるという人は私だけではないようで、一切感情を挟まない説明の有効性は分かる。しかし、その薄情さには違和感もある。

冷静を装っているが、アオの人のよさは隠しきれていない、そんな感じだ。

良かった。この世界で初めて会う人が悪い人ではなくて。

ちゃんと集中して話を聞けそうだ。


「まずは、大まかに歴史について話します。昔、戦争があって世界は滅んでしまった。でも、神様によって、子供たちが救われたということになっている。でも、最近は神様なんていないっていう説が強いので、特殊能力を持った子供が戦争孤児として生き残ったという話になってきているよ。その中の一人になる子供が魔導士として魔法の体系を開発した。現在では魔法は能力の一つとして考えられているけれど。そんな歴史の中で、生き残った者たちで作った国がラジリタ。ほかにも国は存在するけど、戦争はないと言い切っていい。世界すべてが一つの多民族国家みたいなものだから。つぎに、キミがしなくちゃいけない事だけど、ユカリさんの家族や友達と通じ合う手段はいくらでもある」

「えっ!あるんですか!!」

今までじっと聞いていたけど、居てもたってもいられなくなって叫んだ。


アオがかすかに微笑んで言った。

「大丈夫、ちゃんと説明する」


私はうなづいて座りなおした。


「今まで泉から来た人はほとんどが記憶や感情などに異常が見られた。キミも例外じゃない。実際に、名前が思い出せていない。処置としてユカリという仮の名前を使っている。でも、感情は取り戻せる可能性も大きい。記憶を取り戻すのはそこから難易度がちょっと上がるけど、記憶を取り戻した例もある。元の体をユカリさんは失っている可能性が高いから、元の状態のキミの故郷に帰れる可能性はない。でも、さっきも言ったけど、通じ合う手段はほかにもある。元の世界に干渉する鍵も元の世界に関する記憶だ。だから、許されている程度までは家族や友達に干渉できる。でも、僕たち、つまりこちらの住民には君の故郷には干渉できない。だから、ユカリが、ユカリの力で克服するしかない。ここまではいいね?」

私はゆっくりと理解して、頷いた。


「だから、ユカリには旅に出て貰う。ひどいようだけど、現状、他人をかくまっているほど僕たちにも経済的余裕がない。それに、ユカリには自分の足で旅をして世界を見てきてもらえればと思っている。生きているのに諦めてしまうのはもったいないというのが僕たちの活動理念だからだ。それから、旅には僕も途中までついていくつもりでいる。ユカリが行きたいと思うならば、学校もある。大きな目標は欠けてしまった記憶を取り戻して、元の世界の者として『わたるもの』という者たちに認めてもらうこと。『世界の隙間』というところに住む者たちの事だよ。彼らだけが、あらゆる世界を渡ることができる。大体理解した?このくらいしか説明できないけれど…」

「…ありがとう。大丈夫」

旅か。やることはある、大丈夫。


「そうだ、ユカリさん、アイゼに布の素材をもらいませんでした?」

白い木綿のことだ。

「はい、もらいました。これってどう使うんですか?」

「ちょっと見せてね。…うん、足りそうだ。額当てフェテルとマントを作るよ。旅人のしるしだからね」


「…ふぇてる、ってなんですか?」

「僕が頭にしている額に巻くものだよ」


…覚えることはたくさんありそうだ。

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