第2話 覚悟

―――「ユカリさん、説明しなければいけないことがあります。一番奥の部屋に来てください」


そういえば。私はここのことを何も知らないままでした。


綺麗なおうち。木の匂いがとても落ち着くログハウス。

白い木の棚。磨かれた彫刻たち。

すてき。

「夢みたい…」

「この椅子に掛けてください」

アオが窓際の椅子を示して言った。


「ユカリさん。大切なことを言います、よく聞いてください」

「…はい」頷いて見せた。

「キミは、もともと棒人間ではない。そうだよね?」

「はい。違います」

聞き届けると、アオは言った。

「でも、キミにはここに来る前の記憶がない」

大きな違和感が私を包む。


「…!!…ほんとうだ…」

思い出せない?友達の顔も?!……どうして!

「僕にはこんな残酷なことしか言えませんが…キミの世界にはもう…戻れないよ」

「私は、もう、人間じゃないの?」

涙で前がかすんできた。何か言ってよ、アオ。

アオに向かって手を伸ばした。


「明日、旅に出よう。方法は教える」

何言ってるのアオ。

アイゼさんも部屋に入ってきて言った。

「私は君の一生を見たよ。夢人ユメビトとして、たくさんの人と笑いあうのを」


頭が痛い。もうちょっと時間をちょうだい。いますぐには分からなくて…。


ああ、夢だったらよかったのに!

今生の分かれっていうなら、さよならくらい言わせてほしかった!


どうして私は生きているの。

せめて、生きていると、元気にしてると、家族やみんなに言いたかった。


人じゃなくなって、今までも、人なんかじゃなかったって知って、

悔しくないわけないじゃない!!




私は涙を拭いた。

「…全部、教えて!」

知らない場所では何が起こるかわからない。

たとえ戻れると分かったとしても、いくら時間が要るのかもわからない。

生きよう。心に浮かぶ家族の為に。顔も思い出せない友達の為に。

この感情全てが、私が私であることを証明してくれる。

戻れなくても、この時間を最善で生きられるように。

私は、皆を信じて生きるわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る