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景浦安太郎

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 斎藤健吾に初めて出会ったのは小学三年生の時。駄菓子屋のそばにある石碑を奪い合って五年生と喧嘩している最中のことだ。


 そのころの俺は毎日のように通学路の途中にある駄菓子屋に寄り道し、この街の成り立ちが書かれた大きな石碑に座って何時間も友達と遊んでから帰るのが常だった。駄菓子屋の近くにあるこの石碑はたまり場としておあつらえ向きだったが、そいつを素敵に思うのも当然俺たちだけじゃない。あるとき同じように石碑を気に入っている上級生と運悪く鉢合わせ、なんだかんだと難癖を付けられて場所取りで喧嘩になった。子供の世界じゃたまにあることだが、大抵の場合は年下で身体も小さいほうがぼこぼこにぶん殴られて泣かされて終わる。翌日からは我が物顔で略奪した領土に座ってお楽しみの上級生を横目に眺め、悔しげに唇を噛むのがお決まりのパターンだ。俺たちの場合もそうなりそうだった。こっちは五人で向こうは三人だったけど、パンチ一発で早速こちらからふたりが退場。残った三人の中に俺がいて噛みついたり砂をかけたりしてやったが、そんな態度が気に入らなかったのか囲まれて袋にされてしまった。


 蹴られて踏まれて鈍い痛みが全身を襲う。控えめに言っても号泣寸前の俺は心のなかでお母さんのことを想い、今日帰ったら絶対お母さんから先生に言ってもらって学校で叱ってもらおうと考えていた瞬間、それまで威勢よく俺を罵っていた上級生の叫び声が聞こえた。何がおこったのかわからないまま虫みたいに丸めていた身体を起こすと、目の前で相手のひとりが頭を押さえてうずくまっている。腕の間から除く苦悶の表情。よくみると額を抑える手のひらからだくだくと鮮血がこぼれていた。誰も何が起こったのかわからないまま硬直していると、すぐに背後から大きな石が飛んできて、ごつっと鈍い音を立ててそばにいたもうひとりの上級生の肩にぶつかる。すぐにそいつが「いたっ!」とか間抜け声をあげて倒れ込み、その身体にもうひとつ大きな石がどすっと落ちた。圧倒的暴力。これまで喧嘩は素手で行うものと考えていた俺の前にニュートンのりんごのごとく飛来する石たち。劣勢だった戦況は見る間に覆り、上級生のひとりが情けなく泣き出す。その石を投げていたのが誰あろう健吾だった。


 健吾は別学区の小学校に通う同級生で、学校が終わるといつも自転車を乗り回して街中を走り回っていた。子どもの喧嘩で躊躇なく投石をかます狂ったチョイスが持ち味で、小学三年生ながら校内では頭のおかしいやつとして恐れられている。過剰戦力で俺たちを味方したのは「気に食わなかったから」につきるらしく、これが健吾の人生を狂わせていくことになった。ともあれ俺たちにとっては恩人だ。流血沙汰に見舞われた上級生たちは這う這うの体で逃げ出していき、後にはボコボコにされた俺と新しい友達が残った。俺は一発で健吾の全存在にノックアウトされてしまう。


 今回のことでふたつの学校から関係者が集められた場所でも健吾は泰然として全く堪えていないようだった。けろっとした顔ではいはいと答えてごめんなさい。向こうの学校の先生がそれを見て苦い顔をしているのがわかる。こんなことはもう何十回、下手したら何百回と繰り返された一幕なのだ。そして俺たちはその翌日にはもう健吾と遊んでいた。


「黙ってはいはい、ごめんなさいって言えば、あいつら満足すんだよ」


 街中を自転車で走り回ってようやくであった健吾は俺にそう言った。あいつらは言い返されるのがいちばん嫌いだからな。はいはいごめんで遊べるだろ。そう言って笑う。徹底的に先生や大人を舐めている。俺はまたもノックアウト。


 俺の黄金の日々はそうやってやってきた。


 健吾との毎日は最高の一言につきる。思い付きでどんなところへも行き、ありとあらゆる種類の悪巧みを働く。調子に乗っていると上級生が喧嘩を売ってきても誰も健吾には太刀打ちできなかった。健吾の喧嘩はあまっちょろい子どものものではなく、動物的本能と天才的才能で生み出される徹底的に叩き潰すためのものだった。相手が泣いてもやめない。血が出ても容赦しない。最短で叩きのめすためにはどんな武器の使用もいとわない。とにかく二度と反抗できないぐらい痛めつける。一度だけ根性のあるやつがいて兄とその同級生を連れてお礼参りに来たことがあったが、囲まれた瞬間に健吾がリーダー格らしい男の太ももに彫刻刀を突き立てた。それで全ては終わり。健吾は全く躊躇なく人間を刃物で刺せるところを見せ付け、相手は退いた。


 絶好調としか言いようがない。俺と健吾は向かうところ敵なし。周囲にはどんどん人が増え、中学生になると家に帰らず夜の街で遊びまわった。乗り物も自転車から原付に、原付からバイクに変わる。高校生を半殺しにしたときに奪った原付をぶっ壊していたときついでに盗み方も覚えたのだった。乗り物の速さに引っ張られるように健吾の狂気も加速していく。それについていけない人間もいたが、総数では健吾の取り巻きは増えていた。俺たちは放棄された農地のコンテナを根城にし、男も女も集まって日夜騒ぎ続ける。健吾は女にはあまり興味がないようだった。それについて尋ねると、我慢しなきゃいけないことが多い、と不機嫌そうに言っていたことを思い出す。それが彼にとって最も耐えられないことのようだった。


 あるとき家電屋の店頭にうず高く積まれたゲーム機の箱を見た健吾が「もらっていこうぜ」と言いだし、何気なくそこからひとつを持ち上げ巨大な箱を堂々と担いで帰った。かくしてコンテナの中に四万円もする最新型のゲーム機が導入されたが、テレビもなければコンセントもない。それでも健吾は満足そうだった。


「とにかく堂々とやりゃいんだ。こそこそするから怪しまれる。どんなことも」


 ゲーム機の箱に足を乗せて健吾がそう笑う。健吾が時折口にする言葉は、なんとなく彼がなんらかの真実に気が付いているような印象を与えることがあった。


 俺たちの行動が学校で、市の教育委員で問題にされたこともあったが、健吾は決定的な証拠を掴ませるような馬鹿ではなかった。常に健吾の嫌疑は不十分。教師たちは俺と健吾を揃って呼び出しては何時間も説教をしたが、そのころの俺たちはすっかりそういうことをやり過ごす術を身に付けていた。


「いつかどうしようもなくなるぞ」


「ロクな大人になれない」


 そんな言葉も健吾にしてみればどこ吹く風らしい。彼は初めからブレーキが付いていないダンプカーか、発狂したまま眼を潰された闘牛のようだった。それは高校生になっても変わらない。一生こうやって走り続けるように思える。俺には健吾が停まるところが想像できなかった。寝てる時も動き回っているんじゃないかと考えていた。


 だが、どんなエンジンもブローするように、健吾がクラッシュする日も刻一刻と近づいていた。




 仲間のひとりが耳を切り落とされたのは高校二年の夏のことだった。いつも通り健吾と二人でバイクを乗り回してたまり場にしているコンテナに戻ってきた俺たちは、コンテナの前で倒れているクラスメイトとその近くでそいつの耳を拾った。翌日にはそれが二人に増え、三日後には四人と増えていく。全員が徹底的に痛めつけられ最初のやつは耳をもがれたが、脚の腱を切られた奴もいれば全身に煙草の火を押し付けられた奴もいた。最初は馬鹿なやつが現れたと笑っていた俺たちだったが、見せつけられた徹底的なやりくちに底冷えするような恐怖を覚える。こいつは健吾のやり口だった。二度と抵抗する気も起きないぐらい徹底的に。健吾はこれを見て楽観的ににこにこと笑っていた。面白いことするなあ。だがコンテナからは日に日に人が減っていた。耳を切られた事件から三日で四人。健吾が知らないうちにヤクザの息子を殴っていたとか、周りの高校のやつらが団結して健吾を殺そうとしているとか、ありとあらゆるうわさが流れている。そしてその何もかもに一定の信憑性があった。それぐらい健吾は無軌道にありとあらゆる真似を積み重ねている。


 四日目の夕方にはコンテナに俺と健吾しか残っていなかった。どいつもこいつも連絡を入れても電話に出るどころか電源すら入れていない。健吾と一緒に戦おうというやつはひとりもいなかった。健吾は酒を飲んでゲラゲラ笑い、俺もそれに合わせるように一緒になって笑う。心の中に一抹の不安があったが、酒で流し込む。健吾が足置きにしているゲーム機を蹴り飛ばし、どっか出かけようぜ、と言った。こんなときでも健吾は何も変わらない。正真正銘何も気にせずに酒を飲み、俺との会話を楽しみ、街へ繰り出そうとしている。俺たちは連れ立ってコンテナを飛び出して盗んだ原付で二人乗りをし、三十メートルもいかないうちに警察に捕まった。運転していた健吾は逃げようとしたが、原付じゃ逃げられるはずもない。パトカーに幅寄せされて俺たちはふたりで道端に倒れ、連行されながら「バイクだったらなあ」と呟いた。何はともあれ、風向きが変わっていた。これまでに何度も訪れた取調室で事情聴取を待つ間、もう何度も見たような壁の落書きを眺める。「死ねクソ」「早く終わりにしろ」「お母さんごめんなさい」「ぶっ殺す」どこに行っても変わり映えのしない文句だ。俺は一度たりともそんな落書きをしようと思ったことはなかったし、こいつを眺めているといつも情けなくて暗い気持ちになる。もう少しで果ての無い自己否定と不安に捕まりそうになったとき、見慣れた警察官が俺と健吾の前に現れた。はいはいごめんなさい、だ。いつも通り。そう思ったが、今回はなんだか様子が違った。


「追い込み食らってるみたいじゃねえか」


 親しげに話しかけてきて、のっそりのっそりとした動きで煙草を吸う。まあ当たり前だわなと当たり前の流れを見るような口調で言った。健吾の表情に当惑の色が浮かんでいたが、俺はいつかこういう日が来るだろうなとも思っていたのでそこまで驚かない。そこからは大した会話もなかったし説教もなかった。さっさと家に帰れと言われてふたりで解放され、夜の街を歩く。健吾はしきりに先ほどのことを気にして俺と話したがったが、俺から言えることなんてなにもなかった。いつかどうしようもなくなるぞ。中学生の時健吾とふたりで受けた説教が脳裏に浮かぶ。


「ああいうの小学校で先生から言われたな」


 俺が訊き返すと健吾は鼻を鳴らして「賢ぶってんだよな」と不機嫌そうに言う。


「サッカーとか野球とかゲームでもああいう雰囲気で話すやつが出るじゃん。俺ああいうのがいちばん嫌いなんだよ。早めにゲーム捨てていちばん痛く無いようにやられようっての。マジでクソむかつくんだよ」


 健吾の言うことはよくわからないが、俺たちのゲームがまだ続いているということだけはわかった。俺たちは警察署を抜けて道をくだり、駅の裏にある繁華街の近くまで行ったときにバットで殴られた。健吾が絶叫する。それは痛みから出した声ではなく、待ち受けていたものに対する、発狂するような爆発し燃え上がる絶叫だった。暗がりでよく見えないが、相手は七人ぐらいだろうか。健吾がそのうちの一人にとびかかって徹底的に殴るのが見える。俺もバットでぶんなぐられた肩の痛みに呻きながらも相手の首筋に噛みつく。肉が裂ける感触がして悲鳴が上がる。視界の端で健吾が額にバットのフルスイングを受けるの見え、思わず相手から歯を抜いたとき俺もまたふたりがかりで地面に叩き付けられた。そこからは一方的だった。バットで全身を殴られ、ツバを吐きかけられる。健吾の振り絞るようなロックスターのような絶叫が空にこだました。やがて殴る蹴るの嵐が収まったころ、俺の耳がひっぱられ鋭い金属音が響く。ナイフの刃が収納から解かれた音だった。俺も可能な限り抵抗して絶叫する。ふざけんじゃねえ。やめろ。健吾の声はすでに枯れ果てて転がってざらざら音を立ててすり減る紙やすりのようだった。


 健吾の絶叫のせいか、俺の情けない抵抗のおかげか、路地の入口にひとが集まりだしているようだった。遠くからサイレンの音も響いてくる。俺たちを囲んでいたやつらはしばらくナイフをもてあそんで何ごとかを話し合っていたが、やがて俺の耳から手を離して消えて行った。耳から一条の血が流れ、あと少しでもげるところだったと知った。健吾は少し離れたところであおむけに倒れ、四肢を変な方向に投げだしながら良くわからない声で笑っている。まるで林の中を風が通りすぎるような枯れ果てた声だ。俺は全身の疼痛と理不尽な暴力に初めて健吾にあった日のことを思い出す。あの日まぶしいものを見た。全く新しい勝ちパターンに気が付いた。だがそれは正しいことだったのだろうか。俺は健吾に騙されていたのではないか。そんな気持ちが胸いっぱいに広がる。健吾の風のような笑い声が響く。畜生! てめえは一生ひとりでそのくそったれなゲームを続けてろよ!




 翌日、俺は一日じゅう家から出ずに部屋で布団にくるまっていた。携帯の電源を切り、痛む身体を抑え、誰からも殴られていないのに芋虫のように這いつくばっていた。何もせずにただ寝転がって、考えるのはひたすら健吾のことだ。あの日、駄菓子屋の近くで助けられてから俺の人生は常に健吾と共にあった。あいつといると全ての出来事が猛スピードで進んでいく。悪いことや気持ちいいことや楽しいことの全てが俺を通り過ぎていった。多分まわりにいた連中もみんなそう思っていただろう。健吾は俺たちを信じられないぐらい楽しませてくれる。あいつにありとあらゆることをさせた。させられた。そしてみんな痛い目を見て夢から覚める。俺は昨日のことがあって、正直に言ってしまえば健吾から逃げたいと思っていた。いつかどうしようもなくなるぞ、そういった大人の声が思い出される。その通りだ。ついにその時が来た。健吾から教えられたやり方で俺たちはありとあらゆる楽しみを手に入れ、そして連中は俺たちから健吾のやり方を覚えた。だけど俺たちは耳なんか切ったことねえよ! 健吾にはそれぐらいしないといけないと感じたのだろう。それは正しい。とにかく取り返しのつかないことをやってやらないことには健吾は止まらない。俺たちが逃げても連中は一切気にもせず健吾だけを狙うだろう。あいつらは健吾だけを殺そうとして、ついでにいた俺も狙っただけのことだ。


 俺は昨日の奴らが、そして誰あろう健吾がこの家まで来ることにおびえながら一晩中ギラギラと目を輝かせながら布団にくるまっていた。これまでの人生で一番長い夜。俺のなかで通り過ぎて行った様々な言葉が思い出され、昨日の夜にバットで殴られるよりも強く全身を揺さぶった。いつかどうしようもなくなる日が来る。いつか、いつか。今まで目を背け続けていたものがこんなすぐ近くに横たわっていたとは想像だにしなかった。俺は永遠にも思える様な時間のなかでついにそれと向き合い、そして泣いた。いつまでもこんな日が続くとはどう頑張っても思えなかった。昨日のようなくそったれな連中にぶんなぐられて後頭部がばっくりスイカみたいに割れて死んでいる自分と、歳を取って枯れ木みたいになって死ぬ自分が交互に現れる。発狂したような酔いがさめ、ありとあらゆる恐怖が俺を襲う。これから毎日学校に通って真面目に卒業できるかという不安。まじめに働いてまじめな人間になれるかという不安。だが、俺はそれを望んでいた。そして気が付いた。


 もし明日家を出て健吾が襲ってきたやつらを全員返り討ちにして虹色の夢になっていたとしても、俺はもう二度とそれを同じように眺めることはできないだろう。


 俺はずっと心のどこかでこの日々が終わると気が付いていたんだと知って泣く。誰よりも健吾を消費しながら誰よりも健吾が見せる夢に醒めていた。一時の遊びが行き過ぎて健吾を恐れていた。動物園の檻の中の生き物のように思っていた相手が俺の人生に深く食い込むのを恐れ、そして今回それを力強く引き離されて心から安心していた。




 気が付けば夜が白みはじめ、次第に部屋の中を明るく照らし始める。昨日の夜に帰ってきてそれから一歩も外に出ず、どれだけの時間がたったのだろう。やがて太陽が昇り、少しだけ開いたカーテンの隙間から閃光が部屋を切り裂き、俺は毛布からゆっくりと這い出した。起き上がるときにぱらぱらとゴミのようなものが落ちる。乾いて固まった血だった。自分の部屋を抜けて階段を降り、リビングのドアを通り過ぎる時に母親が朝食を準備している気配がする。父親もそろそろ起きてくるだろう。俺は踵が踏み潰されたローファーをつっかけて家を出る。


 早朝、まだ人気は少なく、俺をみた近所のオバサンがしかめっつらをする。大方夜通し遊び続けて今頃帰ってきたのだと思っているのだろう。俺は舌打ちをこらえて通学路を進んでいく。少しすると学校へまっすぐ向かっていく堤防沿いの道にたどり着き、横からの風を受けて歩き出した。すこしすると足の裏に小石を踏んだような違和感を覚え、見下ろすとそこに人間の奥歯が転がっていた。俺はまっすぐ前を向いてゆっくりと歩いていく。大地を撫でるように風が低く吹き、堤防の両側の草むらがそよぐ。やがて道の真ん中で鼻が歪曲した人間が倒れこんでいるのに行き当たった。胎児のように身体をまるめ、鼻から流れた血が地面に黒く染みを作っている。俺はそいつを迂回して先に進む。やがて二十メートルも進まないうちに今度はひとりふたりと倒れている人間が現れた。ひとりは道の端にうつぶせに、もうひとりは少し下った堤防の斜面にあおむけに倒れている。そのすこし先で四人ほど固まって倒れており、ひとりはそのうちの一人は腕があらぬ方向をむき、そして全員が片耳をもがれている。どれも見覚えのない顔だった。風が血と汗の混ざった匂いを運んでくる。


 やがて堤防の端にすがりつくようにして倒れている健吾を見た。赤茶けたシャツを着ているように見えたが、それは血と土が混ざり合って元々の色と混ざっただけのことだ。下の色はなんだかわからない。左腕が肘の手前で少しずれ、赤黒い色に変わっている。堤防に向けて伸ばされた右腕にふたつの耳が握られ、すぐそばにこぼれ落ちた耳が転がっていた。考えてみれば健吾が寝ているところを見たのは生まれて初めてだったかもしれない。健吾はいつもあくびひとつせず走り続け、俺たちの前で目を閉じることは一度もなかった。もしかしたら死んでいるのかもしれないと思ったが、俺は呼吸や脈を確かめることはしなかった。傍に座り込むことも、彼らのために助けを呼ぶようなこともしない。そんな事をしてまた関わり合いになるのはごめんだった。健吾の横を通り過ぎる際に少しだけ歩調を落としたが、立ち止まることはせずにそのまま通り過ぎる。


 二度と振り返りはしなかった。


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