第二十一章 祈り(17)
十七
ひたすら、ひたすら、ひたすら……。
同じことの繰り返しを延々としているものだから、万三郎はもはや自分がカタパルトの自動発射装置に組み込まれたプログラムのように感じていた。プログラムには意識もないし、疲労もない。そう思っていたはずなのに、今、千何百番目かの【hope】を発射して、次の発射のためにハンドルを引こうと一歩踏み出したところで、膝がカクンと折れた。
「あれ?」
立ち上がろうとした。
――なんだ、立ち上がれるじゃないか。
万三郎はホッと息を吐くとハンドルを引きにかかる。ハンドルを引ききって、カチリと留め金に掛ける。いいか、いくぞ、発射! と言って発射ボタンを押した。
「あれ?」
なのに、カタパルトは【hope】を発射しない。二度、三度とボタンを押してみる。それから掛けがねを確認してみた。異常は見当たらない。
万三郎は隣のカタパルトに目をやった。そこには杏児がいた。杏児は杏児で、必死で【hope】を発射している。
「あれ? ユキは?」
万三郎は首を伸ばして杏児のカタパルトのさらに向こうを見る。そこでは、ちづるがカタパルトを操作している。万三郎は杏児に視線を戻して訴える。
「おい、杏児。俺のカタパルト、壊れたようだ」
そう言ってしばらく黙っていたが、あまりに忙しいのか、杏児は返事はおろか、こちらを向きもしない。
「おい、杏児。ユキは?」
反応がなかった。
「杏児!」
「三浦救国官!」
万三郎が少し大きな声で杏児を呼ぶのと、万三郎のカタパルトで発射されるのを待っている【hope】が杏児を呼ぶのとが同時になった。杏児が手を止めて振り向く。万三郎が口を開こうとすると、【hope】が先に文句を言った。
「あのー、待ってんですけど……中浜救国官、どうなってるんすかね」
杏児の顔色が変わった。
「やばい、消えかかってる……」
杏児は万三郎のもとに駆け寄って跪いた。
「万三郎! おい聞こえるか。お前、本当に消えかかってる。すごく薄くなってる! ダメだ、もう動くな。いいか、今、ユキがリアル・ワールドへお前を助けに戻っている。あいつがお前をちゃんと介抱しているはずだ。だから死ぬな。いいか、死ぬなよ」
――何だって? 俺は今、死にかけてるのか?
その時、万三郎のカタパルトの【hope】と、杏児のカタパルトの【hope】が同時に同じセリフを叫んだ。
「三浦救国官! 時間が!」
万三郎に語りかけていた杏児は、頭をかきむしりながら言う。万三郎の肩に手をかけるつもりなのだろうが、杏児の手は
「万三郎、絶対に死ぬな!」
杏児は立ち上がり、万三郎のカタパルトのハンドルを引いて、「発射!」と言ってスイッチを押した。
万三郎は言葉を失った。
――俺、ハンドル引けてなかったのか……。
杏児は、自分のカタパルトに戻り、乗っていた【hope】を発射し、自分の作業を再開した。
万三郎は思わず自分の掌を閉じたり開いたりしてみた。
――もう、このことだま世界で発揮できるエネルギーを、俺は使い果たしたというのか……。
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