第二十章 伊勢(9)


「なんだ、これ……」


 ハーレー・ダビッドソンのバイクのようでもあり、幼児が遊ぶプラスチックの滑り台に似ていなくもない。いや戦国時代の大砲のようにも見える。至近で見ても、この機械が何なのか、三人にはよく分からなかった。補強の目的だろう、がっちりしたつくりの金属パイプの曲がった部分に、かがり火の炎がちろちろと鈍く反射していた。


 シャキン、シャキン、ジャキーン!


「うわっ!」


 三大並んだ機械の、一番向こうの一台が、急に滑り台のような部分を二段三段に伸ばした。釣竿が伸びるような感じでその先端が五、六メートルほど夜空に突き出た。


「杏児、どうした」


「ここにボタンがあって、押したらこうなった」


 杏児が指し示す、装置の側面を見ると、なるほどいくつかボタンらしきものが配置されたパネルがある。万三郎は自分の目の前の一台の同じ位置を覗き込み、やはりそこにあったボタンを押してみた。


 シャキン、シャキン、ジャキーン!


 シャキン、シャキン、ジャキーン!


 隣を見るとユキの前の装置も、斜め四十五度にその滑り台が伸びた。


 万三郎は、自分の目の前の一台が伸びた時はらりと足元に落ちた紙片を認め、拾い上げた。


「あ……なるほど」


 三台の機械を用意したのが祖父谷だということは、さっき【hope】が読んでくれたメモで察しがついていた。


 万三郎は、隣の機械の前にいるユキと、その向こうにいる杏児に声をかけ、紙片を読んで聞かせる。


「移動式のローチング・カタパルト、即席発射台です。足りない脳味噌を使って考えたところ、きっと必要になるだろうと、優秀なあなた方がニューヨークで仕事をしている間に、新渡戸部長にお願いして、ことだま運送便でKCJ本社からここへ送ってもらっておきました」


 杏児が感嘆の声を上げる。


「祖父谷義史、ブラボー!」


 それを受けた【hope】たちが、そこにいない祖父谷を手拍子で一斉に讃え始めた。


「ソ、フ、タニ! あそれ、ソ、フ、タニ!」

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