第十七章 演説(8 結び)


〈 結び 〉


( 28 )顏を上げましょう。想いを一つにしましょう。絶望を心から追い出しましょう。希望を口にしましょう。奇跡を起こしましょう。そして、人類は新しいページをめくりましょう。この魔法のコトバを口ずさみながら……。

“Hope for the earth, hope for the best.”


〈 concluding remarks 〉


( 28 )Let us face the future with a single purpose, release desperation out of our mind, and fill hope in place. Let the miracle take place so that we can turn over a new page of the history of mankind by chanting these magic words:“Hope for the earth, hope for the best.”




 ユキが【wish】に声をかける。


「【wish】、あなた【hope】を連れてきてくれて、ありがとう」


【wish】は当惑した。


「いや、三浦さんには言ったけど、僕じゃなくて石川さん……」


「ううん、先にあなたが向かったから石川さんが応援する気になった」


「そうかな……」


 ユキはニコリと微笑みかけた。


「そうよ」


 疲れ切っていた。


 部屋にはもうワーズたちは数人しか残っていない。杏児はふっと気を失いかけるユキを支えるために再び寄り添った。ユキはもう杏児の気遣いを辞退する気力さえ無くして、支えられるがままに、うつろになりがちな目をしっかり見張ろうと努めていた。


「最後、【wish】、あなた飛んで」


「へ?」


 きょとんとする【wish】は、やがてユキに答える。


「僕、出番、ないよ」


 杏児もユキに言う。


「ユキ、【wish】が言うように、あとは【hope】だけだよ」


 ユキは頷く。


「原稿では、ね」


「……?」


 ユキは、半ズボンの【wish】の目を見据えて言った。


「万三郎はね、あなたと【hope】が双子の兄弟だって、知ってる」


【wish】は頷く。


「ホテルでの騒動があったからね」


 大きく息をしながらユキが続ける。


「うん、【hope】が間に合ったでしょ。だから万三郎は、ここにあなたもいるって、気付いていると思うの」


「……」


「だから、行って」


【wish】は首を傾げる。


「ユキさん、どうしてそれが分かるの」


「分かるのよ」


 ユキは目を閉じてニコリとした。


「あの人、優しいから」


 杏児は黙っていたので【wish】は腑に落ちたわけではなかったが、しかたなく頷く。


「……分かったよ。じゃあ、今から行くね」


 手持ち無沙汰になりそうで、ぶつぶつ言いながらも【wish】はともかくスタンバイした。その背中にユキが手のひらを当てる。


「もう、残り全部あげる。あなたは【hope】と一緒に、人間の本質を担っているの。忘れないで」


【wish】の背中が輝いた。


 ユキをそっとその場の床に寝かせて、ほかのワーズたちは杏児がケアすることにした。ケアしながら、杏児は独りつぶやいた。


「【hope】の代わりに? どこに?」




( 29 )共感いただけましたら、ぜひ母国にお帰りになり、このことを全国民に訴えてください。人類がひとつになって、奇跡を起こしましょう。皆様、ご清聴ありがとうございました。また、お会いしましょう。


( 29 )If you thankfully sympathize with us, please communicate these words to your people back home. A hope, if empowered by all peoples in the world, will work a miracle. Thank you very much for listening, ladies and gentlemen. I WISH to see you again.




◆◆◆

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