第八章 善悪(12)
十二
ユキはまた緊張のあまり、足を震えさせながら、それでも気丈に食って掛かった。
「雉島さん、その女、気が強いですよ。この間も……」
【bad!】が男の後ろからユキを睨んで言った。
ユキが【bad!】に必死に言い返す。
「あ、あなたが【be子】さんに、かか、絡むからじゃないですか」
車椅子の男はユキに視線をまっすぐ向け直し、わずかに目を細めて右の口角を吊り上げた。
「そうかな、人のテリトリーに入って来た者の方が先に名乗るのが礼儀だと思うがな。まあ、いい。俺の名は、
一番左に立っていた祖父谷が男に訊く。
「雉島さん、あなたの頬には文字がありませんが、あなたはワーズ社員ではないのですか」
【ruthless】が祖父谷の肩に手をかけた。
「おい、お前、出過ぎた質問を……」
雉島と名乗った男が片手を挙げて「よせ」と軽く振ったので、【ruthless】はチッと舌打ちをして祖父谷の肩から手をのけた。
雉島が言う。
「お前ら、ちょっと後ろに下がってろ。俺はこのETたちと冷静に話をしたい」
言われて、三人の後ろのワーズ二人は低い声で「はい」と答えて、数歩後ろへ下がった。代わりに【bad!】が雉島に近づいた。それを見届けて雉島は祖父谷の質問に答える。
「ああ、俺はワーズではない。俺はソウルズだ」
「ソウルズ?」
怪訝な表情を浮かべる祖父谷をはじめ、三人の顔を順番に見ながら雉島は逆に問う。
「それよりお前たちは、自分がなぜKCJにいるのか分かっているのか」
ユキが軽く頭を左右に振りながらため息をつく一方で、万三郎は思わず少しかがんで、雉島に顔を近づけた。
「き、雉島さん、あなたには僕たちがKCJにいる理由が分かるのですか?」
「おいッ、雉島さんに近づくな!」
【bad!】が語気を荒げたが万三郎はひるむことなく雉島の目をまっすぐ見つめた。
「分かるのなら教えてください!」
「こいつら、何を言い含められて来たんだ。おい、言えコラア!」
凄みながら【bad!】がさらに一歩、三人に近づいたため、緊迫した静寂が一、二秒、部屋を包み込んだ。次に誰が口をきくのか。
「【bad!】」
「はい」
「俺は、こいつらは古都田から何か言い含められて来たわけではないと思う」
「そうですかねえ。雉島さん、油断は禁物です」
「まあ、しばらく下がって黙ってろ」
雉島は軽く手を立てて、翻した手のひらを二回後ろに振った。
「……はい」
【bad!】は雉島のジェスチャーに従って、さっきいたところまで後ろに下がった。
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