第八章 善悪(3)



「う……」


 万三郎は怯んだ。すると祖父谷はいよいよ得意気に、万三郎を見下した目つきで挑発してくる。


「どうした、この間やってみて俺にはかなわんと悟ったか。そうだ、お前は俺より劣っているんだよ」


 万三郎は思い出していた。先日再び、ティートータラーでスピアリアーズの連中と鉢合わせした時、成り行きで祖父谷と、この英単語の知識対決をして、コテンパンにやられ、さんざん馬鹿にされたのだった。


「あ、あの時は酔っていたから……」


「では、今日、シラフでもお前が劣っていることを証明しよう」


――くそッ、馬鹿にしやがって……。


 万三郎は祖父谷の目を見据えて言い返す。


「いいだろう祖父谷。十秒で五個以上だったな」


 さっき無視されたほうぶん先生はもう一度二人をなだめようとした。


「ほら、おぬしら、仲良くなるために、ファースト・ネームで……」


「よし中浜。では俺からお題を出す。お題は……頻度の副詞!」


 万三郎は内心、喜んだ。昨夜、自分の部屋で勉強して覚えたばかりの項目だったからだ。万三郎はしてやったりの笑みで次々答えていった。


「always, almost always, usually, often, sometimes, rarely, seldom, almost never, never …」


「ストップ、十秒だ。occasionally」


「うっ……では、俺の番だ。いくぞ祖父谷。学問!」


 ところが祖父谷もさるもの、すらすらとよどみなく挙げていく。


「cosmology, physics, zoology, botany, mathematics, psychology」


「ストップ、十秒! えーっと……」


 万三郎はパニックになった。自分が言おうと思っていたpsychologyを祖父谷に言われてしまったからだ。


 すかさず祖父谷がカウントし始める。


「一、二、……」


「メ……medicine!!」


 祖父谷は片頬を吊り上げて笑った。


「危ないところだったな」


「ま、まだ三秒経ってなかったろ!」


「大目に見てやる。次、『大きい、巨大な!』」


「big, large, huge,……ええっと、ジャ、……giant うう……」


「よし十秒! お前、四個しか言えてない。じゃあ、great」


「くそ……」


「はい俺の勝ち。お前、敗北者。負け犬。力量不足。劣等。ざまあ見さらせ河童の屁」

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