第八章 善悪(4)
四
「では行ってきます」
先頭の祖父谷がご機嫌でほうぶん先生に挨拶する。
「くれぐれも他のシートレの邪魔にならぬようにな」
強い加速度がかかって、のけぞり気味の祖父谷に続き、ふて腐れ顔の万三郎、きつく目を閉じて歯を食いしばっているユキがプラットホームから滑り出して行った。
「ひょう!」
――パラグライダーで飛び立つときに斜面を駆け下りて、足がつかなくなった時みたいだ!
万三郎は「ダサド三一五、タドウシVモデル」の車両脇から見える地上がどんどん遠ざかっていくのを見下ろして、思わず声を発した。
「ユキ、すごいな!」
そう言って後ろを振り返るとユキは自分の前の車両の縁に両手でつかまったまま目を閉じ、うつむいている。
「大丈夫か、ユキ?」
万三郎が大声で訊くと、ユキは下を向いたまま頷き、言った。
「高所……恐怖症……」
「ええっ、そうなの? なんで乗ったんだ」
ユキは、一瞬目を開けてちらりと万三郎を見て、すぐまた目を閉じてうつむいた。
「劣ってないよね」
「は?」
万三郎は一瞬ユキが何を言っているのか分からなかった。ユキは、下を向いたまま、万三郎に聞こえるくらいの声量で続ける。
「私たち、負け犬じゃない」
――ああ、さっきのことか。
祖父谷と勝負して負けたのは自分なのに、ユキが「みどり組」という括りでチーム意識を持ってくれていたのが、万三郎は嬉しかった。今はもう上空だ。ユキを心配したところでどうにもならない。
「ああ、そうだな。負け犬じゃない。ユキ、がんばれ」
万三郎は、前に向き直る。もっと勉強に励もうと改めて思った。
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