第二章 杏児(14)
十四
スミス社長の言葉を聴き取りながら、わずかな時間にこんなにたくさんのシートレを次々と編成し、送り出した中浜をすごいと思った。社長室で古都田社長の諮問を受けていた時は、せいぜい僕と同じ、ミドリムシレベルだと思ったけれど、なかなかどうしてやるじゃないか。むしろ僕は彼に劣るのではないかと焦り始める。その時、その僕の焦りをいっそう助長させる光景が、百十八番線のモニターに映った。
ベン・マンズフィールドが、暴れていた。
――彼をなだめるためにさっき送り出したシートレは届いたのか、それとも届かなかったのか。
モニターの前で絶望的な顔をしている僕のことなど知る由もなく、止めに入る審判を荒々しく押しのけて、ついにベンは山本に手を出した。やられた山本もすぐにベンを殴り返した。そしてすぐさまその二人を両チームの選手たちが取り囲んでもみくちゃにした。
アナウンサーが実況を伝える。
「ああ、これはいけません。ベン・マンズフィールドと山本のもみあいから、チームメンバーを巻き込んでの大乱闘になってしまいました。今、私が見ていたところでは、ストライク判定に不服のマンズフィールドに、さらに山本が不用意に何かを言って、それが決定的にマンズフィールドを怒らせたように見えました。ですが山本は、マンズフィールドに胸ぐらをつかまれても、何が起きたのか分からないという表情でした。何か誤解があったようにも見えました。しかし時すでに遅し。今は両軍の監督も乱闘に加わっています。観客からの大きなブーイング。これは収拾がつきません」
――誤解の原因は……僕しか、考えられない!
気が気ではなくなった。僕のせいで大変なことが起きている。僕が悪いんだ。
もう、ベンにひたすら謝るしかないと思った。急いでタブレットでワーズを招集する。
“Sorry, sorry, sorry, sorry, sorry…”
【sorry】たちはすぐ来てくれた。CG映像を見ているかのように、見た目がまったく同じ、ほっぺたの【sorry】という表示もまったく同じ連中が、カートを降りてバラバラとホームに駆け込んでくる。ホームはたちまち、【sorry】たちでごった返した。
「おい、何で俺たちだけこんなにたくさん出動するんだ」
「クライアントは、いったい何をやらかしたんだろう」
「誰がどの車両に乗ってもいいのかな」
僕は叫ぶ。
「どうでもいいから、みんな早く乗ってください、急いで!」
結局、僕は二十人の【sorry】を招集してシートレに乗せたのだった。
「ゴー!」
「まずいぞ、このシートレは文になっていない。車両の連結部が弱すぎる」
「そりゃあそうだ。同じワーズを延々と並べただけだから、文になっていない」
「マジでやばいぞ、同じワーズを何回も使ったら、それに応じて一つ一つのワーズのエネルギーが減ってしまうことを、この新人クラフトマン、知らないみたいだぞ」
「いや、それなのに、シートレの推進力だけやたら感じるんだ。エネルギーバランスがおかしなことになってる」
「本当だ、列車のパワーだけやたら強い! こりゃ、下手すりゃコケるぞ!」
【sorry】たちのさまざまな愚痴や不安を聞きながら、僕はシートレがガチャガチャ音を立てながら飛び立っていくのを見送った。そしてすぐさま、第二弾の「言い訳」シートレの編成にとりかかる。
“Oh, my god. Please, please, please. Don’t hit me. Don’t do that.”
(ああなんてことだ。お願いだ、お願いだよ。僕を叩かないで。そんなことしないで)
その時、隣りで中浜が自分のモニターを見ながら叫んだ。
「どうして……どうして、ノーサンキューなんだよ!」
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