第四話 夕凪

銀は火燐へ暖かい卵がゆを作ってあげた。ふぅふぅしながら食べている火燐の姿を見て、心が暖かくなった。


だが、現状は最悪だ。


(火燐を現し世へ戻すことは出来る。出来る…が)


したくないと銀は思った。現し世への戻り方は、霊魂を取り出した術者がその霊魂を…つまり火燐を殺さなければならないのだ。


(他の方法を探さねば…そしてこの国を出て、物の怪ノ国へ行こう)


物の怪ノ国は玉藻前のような総大将がいない国だ。様々な物の怪が自由に暮らしている。


卵がゆを頬張る火燐を見て、銀は微笑んだ。


「…とりあえずその服を何とかしなければな」


セーラー服は目立ちすぎる。なにか着物を買わねば。だが、銀のような者が女用の着物を買うのは怪しまれるだろう。すると、戸を叩く音が聞こえた。


「おーい!ぎーん!いるかー?」


いつもは喧しくてうっとおしい声だが、今は天の声のように聞こえ、すぐに戸を開けた。


「夕凪(ユウナギ)お前、女用の着物を持っていないか?」


銀は夕凪と呼ばれた夕焼け色の毛をした妖狐に問いただした。


「ちょ、まてまて!確かによく女に間違われるが、おれは立派な男だぞ!女用の着物なんて……なんて………」


口元に手を当て、考えるポーズをとり、おもむろに顔を明るくした。


「あるわ!姉ちゃんのお古でいいなら!てか、誰が着るんだ?」


夕凪がひょいと居間を見ると人間がお椀を持ちながらぺこりと頭を下げた。


「おまっ!!!にんげ…!!!」


すぐにそのお喋りな口は銀の手により塞がれた。


「ちょっと、黙って。事情は話すから。」


居間に上がり、火燐と同じ卵がゆを食べている夕凪は、うんうんと相槌をうち、たまに「デステニー…」とか訳の分からないことを呟きながら銀の話を聞いていた。


親友が大罪を犯したのを知ったが、特に責めたりはしなかった。そして、火燐に現し世への戻り方は告げていないことを悟った。


「とりあえず話は分かった。おれに協力して欲しいんだろ?」


「あぁ」


銀は真っ直ぐ夕凪を見た。黄色の瞳に曇りは一切なかった。


「……よっしゃ!とりあえず着物な!それから、この国抜けるのに旅の支度もしなくちゃな!おれは家族がいるから一緒にはいけない。だから買い物くらいはおれにさせろよ!」


銀は頷いた。この話を聞いていた火燐は、2人が羨ましく思えた。


(親友とか姉妹とか、私にはいたのかなぁ)


火燐は目を閉じ考えた。が、答えは出てこない。夕凪が火燐の顔をのぞき込んだ。


「おーい、眠いのか?」


目を開けて首を降ると夕凪はにかっと白い歯を見せて笑った。活発そうなその青年はすっと立ち上がり、買出しに行ってくる。と言い、出かけてしまった。


銀も家の中にある必要なものを取り出し始めた。火燐は何をしていいのかわからず、銀の横顔をただ見つめていた。

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狐火の呪い Naru @Naru0318

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