ささやかな思い出

 ある程度終わらせたところで、リンを解放してやった。

 俺たちは、ハンバーガーのセットをふたつテイクアウトして、隣の公園に出た。花火大会のあの公園、俺とリンとが出会った大池公園だ。

 木漏れ日のはっきりした桜並木の遊歩道を歩く。この猛暑の中、歩く物好きは俺たちくらいだ。人影はない。

 歩きながら俺は、高校生までこの『山の町』に住んでいたことをリンに話した。今は、ここから少し離れた『海辺の街』の高台に建つアパートに住んでいる、と。

 自分と同じ中学校に俺が通っていたと聞いたリンは嬉しそうだった。

「タキくんとわたし、いつかどこかですれ違ったこと、あったりして」

「そうなー」と軽く答えながらも、俺が十三のとき、リンは五歳だしな……なんて考えた。

 公園の大きな池のほとりには砦のように立派なコンクリート造りの展望スペースがある。中に入ると、しっかり日が遮られ涼しかった。

 階段を上って景色が見渡せる最上階に行き、俺たちは若干バンズがシワシワになったハンバーガーと、少し湿気たポテトを食べた。そんなのでも、綺麗な池を見下ろし、その向こうの白亜のビルの群れや、遠くに連なる青い山脈なんかを眺めながら食べると、最高に美味かった。

「タキくんってどんな中学生だったの? やっぱり目立ってた?」

 ちゅーとストローでコーラを飲みながらリンが言った。

「ぜんぜん。地味なもんだったよ」

「モテた?」

「いーや」

「カノジョなんにんくらい居た?」

「居ねーよ、ひとりも。ていうか、カノジョはふつう何人も居ないだろっ」

「えー。なんで? モテそうなのに」

「おまえみたいなのと一緒にすんなって」

 中学生ごろの俺は、本当にパッとしない男だったのだ。とはいえ、モテそうというリンの言葉にちょっと浮かれてしまう俺。

「なんにもなかったの? コイバナ的なの」

「ねーよ」と俺は言ってから、茶色の紙袋をゴミ箱に放る。

 ふとひとりの女の子の姿が思い浮かんだ。

 放課後にピアノを聴かせてくれた、あの子との不思議な時間。

「ああ、そういえばひとつだけ……」

「聞きたい!」

「そんなたいしたことでもないぞ? モテトークとかじゃないし」

「聞きたいききたい!」

「でもなあ」

 ほんのささやかな思い出だ。リンのような本物のモテキャラに話すのも恥ずかしいくらいの。

「自分はわたしのさんざん聞いてきたくせにっ」

 そのひと言で、結局、話すことになった。

「中三の秋の話だ」

 リンはワクワクした顔で聞いている。

「それは……『アマイロノカミノオトメの物語』」

 わざとらしく気取った調子でその言葉を口にした途端、リンはなぜか、ギクッと顔を強張らせた。

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