さかみちくだる 弐
坂を上ったり下りたりを繰り返して、私達はへとへとになり息をついていた。どうやっても出口が無い。音のしない空はいつ
このまま出る事が出来なかったらどうしよう。そう思い始めた時だった。
「
園子さんがおずおずと言い出した。
「ここは学校のすぐ
私は少し
「他に頼れる方なんて居ないでしょう。やらないよりはずっと良いと思うの。一緒にお願いしてみない?」
「でも、どんな物なのかも私、わかってないのに」
「言ったじゃない。るきへる様はとても頼りになるの。学校と私達を見守って下さっているのよ」
園子さんは力強く頷く。
「私ね、一度だけ講堂でお願いをした事があるの。球技会の前に脚を怪我してしまったから、早く治ります様にって。次の日には包帯は取れたわ。代わりに頼まれたのは、教室の花瓶から花を一輪持って来なさいと、それだけ」
園子さんは熱を込めてそんな事を語った。私は少し圧倒される程だった。
「とても優しいのよ。だから大丈夫。一緒に講堂に行って、何をすればいいのか聞きましょう。ふたりなら平気よ」
背に腹は代えられない、と思った。特に、これがあの怪人の仕業なのだとしたら、一刻も早く抜け出したかった。私は頷く。園子さんはとても嬉しそうにした。
「それじゃあね、お名前を呼んで、お願いしますって言うだけなのよ」
私達はお祈り風に手を組んで、空に向かって声を上げた。
「るきへる様、るきへる様。どうか助けて下さい。お願いします」
途端、びしり、と青い空に、まるで古い天井の様に
空が砕けたその先には、また空があった。今度は橙色に染まりかけた
「……これ」
「試してみましょう、出られるかどうか」
私達は
私達は、脱出に成功したのだ。
はあ、と息を吐いた。どっと疲れが出た様だった。園子さんは感無量な顔で、矢っ張りるきへる様で間違いがなかった、などと喜んでいる。ともかく、良かった、と安心する。
「ふたつ」
背後から声がした。私は振り向く。そこには誰も居なかった。ただ、暖かい風がすう、と通り抜けただけだった。
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「そう言う訳で、大変だったの」
帰り際に寄って報告をすると、叔父は頷く。
「無事帰れて何よりだよ」
「本当に。私もだけど、園子さんがあのままだったらとても可哀想だった」
「お友達かい」
「そう。岸園子さん。前々から仲良しなの」
私はついでとばかりに台所でお米を研いでいる。放っておくと叔父は直ぐに食事を抜くのだ。手が掛かる生き物だと思う。
「僕も少しは調べ物をしたんだ。君の学校の辺りに活発な悪魔崇拝や神秘主義の
私は驚いて手を止めた。
「そんな事、どうやってわかるの」
「知り合いにインチキ霊能者が居る。色々と話をして来たんだ」
「インチキなのにわかるの」
「インチキだからさ。代わりに情報網を持っている。思ったよりも売れっ子の様で、捕まえるのに時間が掛かってしまった。済まなかったね」
私はぽかんとして、叔父の人脈に呆れるばかりだった。
「考えている事があるって、その事」
「
「叔父さん」
私は濡れた手を拭きもせず、少し涙声になりながら言った。
「
「泣かないでくれよ」
「有難う」
叔父はあんなに怖がりなのに、私の為に少しでも動いてくれていたのだ。借りを数えるあの声を思い出す。あの時は助かったけれど、私、私は。
叔父さん、私、なんだかわからないようなるきへる様より、叔父さんの方がずっとずっと好きよ。
照れ臭くて言えなかったけれど、私は心の底からそんな事を思ったのだった。
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