みあうひととき 参
「それで、破談にしてしまったの」
私は(再び私、
「お母さん、いいお話なのにどちらも文句を言うからって
「仕方がないだろう、そういう話になったのだから」
叔父の話によると、お相手の女性は亡くした
何か伏せている情報がある様な気がしてならない。大人は
「
軽く手を広げる。そして反対に私に尋ねて来た。
「君は恋情は駄目なんじゃなかったのか」
「叔父さん、別にあの人の事を好いていた訳じゃないでしょう」
「わからないよ。もしかして無理にでも
「………」
なんだかくっつけた肌の体温が、高い方から低い方に移るみたいで気持ちが悪い、とも思ったが、私が
「それならそれで、良いじゃないかと思うわ。そういう
「そうだね。もしかしたら僕らは、そういう夫婦になれたのかもしれない」
叔父はぼんやりとそんな事を言う。断っておいて何を言っているのかと思わないでもないけれど。
白シャツの青年の姿が、現実の愛に塗り潰され、時を経るごとに薄くなっていって、ついには消えてしまう。そんな
「でも、ならなかったのでしょう」
「そうだね。もう縁は切れてしまった」
「ねえ、叔父さん。どうして? 何か私に話していない事があるでしょう」
「そりゃああるさ。物書きの仕事は、何を語って、何を語らないか選ぶ事だよ」
どうもこの叔父は、こうやって
「どうして、か。そうだなあ」
叔父は、何だか少しだけ悲しそうな、懐かしそうな顔になって、庭をジッと眺めた。
「雨が降っていたからね」
私も外を見やったけれど、その日は抜けるような快晴の日和で、雨の雫ひとつ見当たらないのだった。
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