第3話名前のない歌姫…


 工場全体の明かりを消し屋上だけが照らされる。

 カメラは日本中とまではいかなかったが渋谷のスクリーンや、大阪などの大きいショッピングモールで映像が流れていた。

 緊張している彼女の歌声を初めにアップテンポな曲が始まる。

 彼女が歌っている横で一人の看守は考えていた、何故内気そうな彼女が最後にこんな願い事をしたのか、、、歌の歌詞をよく聞きながら上層部から貰っていた資料を見ていた。看守は一つの答えにたどり着く。確信ではないから想像だけど、彼女の思いが募ったこの歌から…


(瓦礫の病棟でうまく歌えなくて〜)

 彼女は内気で人見知り、前の職場でも同期からはいないとものとされていた。

 そんな職場では人と話すことも相談することもできなかった

(ほらみて私を、目を逸らさないで)

 誰からも相手にされない彼女の悲痛な叫び

(黒い鉄格子の中で私は〜生まれて来たんだ悪意の代償を願え望むがままに)

 内気な彼女は自分の殻の中で生き続け、体は周りと接することを恐れるが彼女の心が人と接したいという願いを望んだ。その代償に罪を背負い

(さあ与えよう正義を壊して〜壊される前に 因果の代償を払い)

 彼女は今回の罪を改めはしないだろう、彼女が起こした事は世界のルールを壊して迄彼女が願い受け入れた彼女の正義、自分のことを見てくれる人たちが現れるのを待つため手に入れた永遠の命、その代償に地下の暗い独房で孤独にされる彼女。


(耳鳴りがしてる鉄条網がうるさくって、思い出せないの〜あの日の旋律

 雨はまだ止まない 何も見えないの)

 彼女の独房は最悪なもの、基本電気はついてなく音もない場所、常人なら3日も持たずに早く罰せられる事を願う。しかし彼女は長い月日をなんとも思わないのか、様子を見るために数時間に一回ある見回りの看守とよく話をする。

 たわいもない話、只々自分を見てくれる人がいる事を彼女は喜び話続ける。

 だがその目元にはよく泣いた後もあった。見回りがいない電気が消えてる時によく泣いてる声が響く。俺も見回りの一人で彼女と話をした事もあるし、一回だけ俺に歌を聞かせてくれたこともあった、その時の歌は彼女自身覚えてないのだろう。俺はあの時の歌が聞けるかもと思い今回の事に立候補した部分もある。


(神ハ告ゲル 真ノ世界ヲ)

 彼女が居た場所が、今この瞬間みたいに少しでも暖かい場所だったら彼女は罪を背負う事は無かったのかもしれない


(黒い雨〜降らせこの空 私は望まれない者 ひび割れたノイローゼ

 愛する同罪の傍観者達にさあ今ふるえ正義を

 消せない傷を抱きしめてこの身体を受け入れ 共に行こう)

 彼女は泣きながら歌う。

 自分の罪を自分に言い聞かせ、なおこの世界で自分と同じ様に苦しむ人達のために自分を犠牲にしてまでも応援し、逆の立場にいる人達には苦しむ人達がいる事を訴えかける様に…

 彼女の罪は一生消えないだろう

 ただ彼女の顔を見る限りこの身体を受け入れ新しい道を生きていけるかもしれない

 彼女自身希望を願って聞こえる歌だった。


 彼女は歌い終わり泣きながら寂しい顔で周達にお礼を言う。

 周達は詳しい事を知らないが暖かく彼女を迎えてくれた。


 彼女にとって初めてのこの幸せの時間も終わり

 夕日も沈みきり少し経った頃彼女は連れ戻され1週間と言う残り少ない日をあの独房で過ごし罪は罰せられた。

 罰せられる前の彼女は泣いた後もなくとても笑顔だったと誰かが言っていた…

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