第5話 BBQ
認証を抜けドアを潜り、中央休憩室。
「っぷ」
そこは白煙が室内を多い、思わず目に激痛を感じずには居られない有様であった。
「な、何だこれ!?」
空いた手で空を掻き、目の前の煙を少しでも晴らそうとする防衛本能。目元は涙がちょちょ切れ、思わず吸い込んだ煙に思わず咽ずに居られない。
「ああ、A10、丁度良い所に」
開放されたドアから一気に白煙が排出されてゆき、次第と室内はクリアを取り戻していく。
決して広くはない室内。十数人の白衣姿が室内に密集し、その中心には諸悪の元凶フレイがコンロの側、トングをカチンカチンと鳴らしA10を招いた。
「な、何事ですか!?」
薄霧程度には通る様になった視界。良く見ればフレイやその周囲の研究員たちは尽く防毒マスクを装着している。
囲むコンロでは今なお煙たい白煙を立ち上らせ、木炭の爆ぜる音と共に、網に並べられた串が焼ける音を立て、細かく刻まれたブロック状の肉と野菜とが交互に突き刺され、ピーマン肉モロコシ肉ピーマンと、肉肉しいコントラストを彩っていた。
「何って、バーベキュー。ホレ」
さも当然と言わんがばかりに答え、トングでその一串をつまむとひょいとこちらへ差し出して来る。
「いや排気! 真っ白だったじゃないですか、何やってるんです! 火災報知器は!?」
「黙らせた」
「何で!?」
「そりゃ、バーベキューの為さ」
そこまでしてこの狭い空間でやるバーベキューに固執する意味が解らない。換気も凡そ追いついておらず、限に室内は最早一酸化炭素の塊であったではないか。
A10の疑問にさも当然と答え、フレイは次へ次へと串を各人の皿へと配分してゆく。受け取った白衣の一人が串に手をかけ口元へと運ぶが、しかし串の先端は防毒マスクに阻まれた。
「むぅ。ジュフ! 空間の成分濃度どんくらいー?」
「聞くな。A10が無事だから大丈夫だろ」
「それもそっか。んじゃ」
と、防毒マスクを剥がし、第六研究室が一人ベティはバーベキューへと齧りついた。
「おーいしぃーぞおおおおっ」
猛るベティの姿を確認し、やがて室内の他の者もわらわらとマスクを外し串にありついていく。
そもそもドアを開放しなかったらどうやって食べるつもりだったのか。
「……はぁ。いやほんと、何でまたこんな事を」
「レクリエーションだよ。私達はおいそれと外出もままならないからね。仮想だとしても楽しむ努力はしないと」
そうまでしてでも抜かねばならぬ程には、彼らはストレス漬けの環境である。出勤から退社まで安易に外出する事は敵わず、必然、陽の光を浴びる機会は限られる。また所属する組織、また日本にあって異人の風貌はやはり未だネックとなる色合いは強く、そうでなくとも異邦人は異邦人で固まりがちになるのだ。
また、プライベートにまで干渉する程の上司ではないが、それでも己等の手がける罪を自覚すればこそ、彼らはついぞ閉じこもりがちになってしまうのである。
「せめて換気をもうちょっとしっかりしましょうよ。ていうかここまでするくらいなら割り切って外でやりましょうよ」
「ん……む」
春の小川をモチーフに映し出す室内。恐らくだが白煙に遮られてその映像もほぼ無意味であったに違いない。
「他県でやるとか、やりようはあるでしょう」
「そういうもんかい」
「無理をしてまがい物で誤魔化そうって方が逆に不健康ですって。それに、言うほど俺たちは注目されちゃいないと思いますよ? 何もニズヘッグや戦闘員スーツで着込んで河原に繰り出すでもなし」
「それは、まぁ確かにそうだね。
うん、解った。では改めて仕切り直すとしようか。完全に基地を開ける訳にはいかないから2、3班でシフトを振ろう。良いね?」
トングを握ったまま、振り返り腕を横薙ぎに払う。
室内の各所では迷々に応える声が上がった。あまり乗り気でない者が数名存在している風に見受けられた。
「あー……インドア派か。えぇい構わん! たまには健康的に活動した方が良いだろう」
そういう事になった。
戦闘員と中央休憩室 和平 心受 @kutinasi3141
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