第4話 戦闘員スーツ


 いざ実験を控えた悪の組織。


 襲撃対象となるビルの裏手にトラックを停め、現在揚羽とA10は戦闘員の衣装を装着中である。


「今の装備メンド臭ぇよなぁ」


 任務となれば何でも請け負ってしまう万能型の構成員、虫の揚羽も愚痴る時は愚痴る。むしろ公私を分け、プライベートでは口数は多く、明るい性格をしている。


 そして揚羽が云う様に、現在彼ら戦闘員の装備は、肌に未着する強化服の上に防御繊維の外套を纏う形となり、手間は凡そ倍に増している。まして強化服はその名の通りパワーアシストモジュール機構の為、着るというよりは装着が正しい。衣服を着る以上に手間がかかるのだ。


「ええまぁ。昔みたいに電車通勤だったら、これはキツいですね」


 厳密に言うところの悪の組織日本支部唯一の戦闘員A10は、ほんのちょっと昔、組織が都内に居を構えていた頃を思い浮かべ、同意した。


 まだA10が一介のアルバイトとして戦闘員をやっていた頃、彼らが現場に投下され実験が終了した後の帰投は各人に丸投げされていた。A10もまた、人目のつかぬ場所まで逃げ延びた後は当時のスーツを脱ぎ、バックに隠しつつ電車で帰還していたのだ。

 当時はヤクザまがいの人材派遣会社が仲介に居たため、装備の返還義務を怠ると手酷い天引きが横行していた為である。


「こう、変身ヒーローみたく一瞬でチェンジ出来ねぇもんなんかねぇ」


「止めて下さい。フレイが喜ぶじゃないですか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る