乙女二乗
桜庭かなめ
乙女二乗
『乙女二乗』
いらない。
いらない。
男はいらない。
人はみな変態で、性欲に溢れてる。
いつも、誰かがあたしを舐めるようにして見ているの。性別関係なく、誰かが人生のオカズにしている。
気付かない間に。
でも、あたしは女の子しか見ない。
見ない。
綺麗で可愛いから。
あんな娘のどこがいいの、ってたまに言われる。
でも、分からなくていいよ。あたしにとって可愛いと思えれば、それでいい。
男なんて汚い欲の塊。
金、酒、権力、女。たまに、男。
自分の欲を満たすためなら、他人のことなんて関係ない。傷付くことが快感の輩もいるのよ。男の中には。
昔、あたしはとある男のオカズになってしまった。
魔法で体を縛られて。ゲスなモノを突っ込まれて。女は奴隷のようにせいぜい男の欲を満たすためにいればいいと。そんなこと言って、あたしをぐちゃくちゃにした。
体も、心も、痛かった。死にたくなるくらいに。
それが人生唯一の汚点。
あの瞬間、全ての男を恨みました。
そして、すぐ後にそいつを殺しました。見せしめのために殺しました。それを見た男達の怯える顔はとても美味しかった。あたしを賛美する女の子の声が更に美味しくさせてくれた。オカズにしてやったよ。ざまあみな。
でも、消えないの。あの時に感じた痛み。
どうしてくれるんですか。殺しちゃったよ、あんたのこと。
それからちょっと経って、とても可愛い女の子と出会った。
金髪が綺麗で、顔がとても可愛い女の子。
声も仕草も表情も。全てが可愛い女の子。
この子と生涯を共にしたいと思った。恋をして、愛していて。あの時の痛みをこの子が癒やしてくれると思ったから。
「好きです。あたしとずっといてくれますか」
「……もちろんです。あなたのことが好きですから」
彼女と気持ちが重なっていて、付き合えると思った瞬間、あの時の痛みがようやく癒えたような気がした。殺しても消えなかった痛みがようやく。彼女との口づけはとても優しくて温かかった。
ああ、やっと幸せを掴み始めたんだ。
それが分かって幸せになれたの。
この世界では女の子同士で子供が作れる。
男同士じゃできないけどね。
愛情と性欲をいっぱいにイチャイチャして、たくさん口づけをすれば、一定の確率で子供ができる。
でも、そうやってできた子供は全て女の子。
そう、女の子だけで命を繋げられるの。
「こうすれば子供ができるかな?」
「……できるよ。産まれたら2人で大切に育てよう」
あたしも、彼女と2人の女の子を作りました。
今もなお、女の子が増え続けている。
あぁ、何て幸せなんだろう。
男がどんどん減っている。何て素晴らしいことだろう。
女の子が生まれて。
女の子が成長して。
女の子に恋をして。
女の子と結婚して。
女の子と子供を作って。
それがこの世界の摂理になっていくの。
そして、この世界が女の子だけの世界になるの。ああ、何て美しい。
いらない。
いらない。
男はいらない。
用無しです、男なんて。
そんなことない? なら、どうして男は減っているの? どうして、女性中心の世界になってきているの? その程度の存在になったのよ、男達が。
あたしも男達と一緒だって?
冗談じゃない。欲もあるけど、あたしには愛がある。そこがあなた達とは決定的に違うところ。それ以上言うと、あの男のように殺すよ。
せいぜい、男はこの世界の片隅でひっそりと暮らせばいい。寂しく、虚しく。それが嫌ならこの世界から追い出してやるよ。
それがあたしの……女の逆襲です。
恨むならご自分に。ご自由に。
あたしは愛おしい彼女と、彼女と作った家族と一緒に楽しく勝ち逃げするよ。
『乙女二乗』 おわり
乙女二乗 桜庭かなめ @SakurabaKaname
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