第6話




 最初の一撃を躱し、不躾なデンキウナギを怒鳴りつける。その程度の攻撃で何をやろうってのか、このウナギ野郎が。


「なんだよてめぇ!そんな手しか使えねぇのか!?」

『nngng……hzkyl』

「まさかと思うんだが、不意打ちでしか勝てないと思った……つまりお前、図体デカイ癖にこの武人より弱いんじゃねぇか?』

『NNDT!NNW!!NNWYXKwww!!』


 おうおう何を言ってるか全然見当がつくけど、いい感じにぶちギレていやがるな。青筋を立てているデンキウナギというのは、なかなか見られない光景ではある。


 青白い光がヤツの身体から放たれる。デンキウナギなら直流電源のはずだが、この光はなんだろうか。しかし、そんなに怒るってるってことはアレだな。


「つまるところ図星か」

「情けないヤツだな、図体だけはデカイが」


 包丁にも煽られて、青筋が更に増えたような気がする。そうやって頭に血が上った状態で攻撃をしてくるだろ?


「攻撃が雑だな」

「さっきのヤツの方がよっぽど強いぞ」


 地面に頭を叩きつけてくる。濡れた地面にそうやって頭をぶつけてくるのは自滅としか……いや、わかってるぞ。


『dst、kknytknynk』

「近づいてくる目的なんて感電だろうが。そんなもん引っかかるかよタコ、あ、タコじゃなかった」

「ウナギだからな、間違えるなよ」


 こっちまで精神的にちょっとダメージくるような発言するなよ包丁。あくまであいつにダメージ与えるんだからな、精神的に。ネタのバレた放電技なんて、接近しなければダメージなんぞ喰らわねぇよ。とはいうものの、接近しなければ話にならん気もするな。


 一撃を入れたいのはいいのだが、いかんせん近づくと感電することは目に見えている。むやみに近づいたら痺れることになるのは間違いない。だとしたらどうしたものか。


「ほれほれどうした下等生物。邪神名乗ってんなら人間様程度始末してみせろ!」

「動きがノロいな!ウナギかと思ったらナメクジかナマコじゃないのか?」


 包丁の煽りもいい感じになってきた。邪神でんきうなぎのボルテージは最高潮だが、いかんせん動きが悪くなってきた模様である。それはそうだろうな、ずっと動き続ける上に電撃も発してるんだ。酸素は足りない、ATPは枯渇する、代謝産物は溜まる……そしてついにその時が来た。


『dstdmjhmw!?』

「動きが緩慢だぞ?息上がってんじゃねぇか?」


 生体的に発電が可能といったところで、生体組織である以上疲労も蓄積するわけだ。発電能力そのものも当然性能が低下する。


『mmd!mdyrslwknw!!』


 ……いや、まだだな。殺気を感じる。大気中に放電してくるつもりか!一歩ステップバックする。大気中に放電してくるということは、100万ボルト程度の電圧を持っていると推定される。


「そこが間合いだってことはな、わかってんだよ邪神でんきうなぎ!」

「なんでわかるのか若干疑問ではあるが」


 実際、水中に放電して捕食してくるような連中である。当然そうなると、同じように大気中にでも放電することは予想できるというものだ。効率は悪いから実際には追い詰められ時の切り札だろうけどな。


 デンキウナギ野郎が倒れこむその瞬間、首を包丁で刎ねとばす。もう電流のかけらも残ってはいないようである。アマゾンでデンキウナギを食べるようであるが、放電しきった状態でないと感電してしまうので、暴れさせて放電させてから捌く、それと同じである。


「……ふぅーっ……流石にしんどかったな連戦」

「こいつのほうを食べるのか?さっきのやつはどうする?」

「んー、こっちから食べようかな。実際デンキウナギは喰われてるんだよな、アマゾンでは」

「人類とはなんなのだろうか?」


 そんな疑問に思われても困るが、実際なんでも喰おうとして、そして食ってきたからこそ人類というのはここまで繁殖してきたわけだ。何故このような存在を作ったのか、神とやらがいたら最大の失敗作は人類ではないかと思うな。


『なんということだ……人間というのはここまで強いのか……』

「そういうこった。ほれ、司書ちゃん返してくれ。邪神だから苗床にもならんし」

『や、約束だ……返し……て……やれ……』


 先程の武魚人が、息も絶え絶えに指示してくる。中々男前である、邪神だけど。魚人だけど。


「ふむ、やはり勝ったか」

「あれ?師匠、なんでこっち来たんだよ」


 気がつくと師匠がやって来ているではないか。


「この魚人たちもこれ以上はやる気はないと思う。お前はどうする?」

「んー、なんかこいつら襲って喰うのはちょっとキツいかな、人間っぽいし」

『お、襲って喰う……』

『だから言ったじゃないですか!この人怖いってぇ!!』


 司書ちゃんどうやら俺のこと有る事無い事魚人たちに吹き込んでいたようである。有る事無い事とはいえ結構食って来たからな邪神。魚人たちも震えているようである。


「司書ちゃん返してくれるなら別にいいんだがな。あと苗床問題はどうにかしないといかんが」

「実際のところ苗床が人間である理由、特に無いんだがな」

「マジかよ師匠……よりによってなんで人間」

「ぶっちゃけると、植え付けやすかったからだろうな」


 やはりな……師匠のいうことはもっともで、そりゃ植え付けやすいヤツがいるなら植え付けもするか。


「他にないのか他に」

「提案というわけではないがな、この星の貝の中にちょうどいい苗床があるとしたら、お前たちどうする」

『そんな都合のいい話があるのか?』

『いあいあいあ、それはないだろうそれは』


 魚人たちがざわつくが、それ俺でも思うぞ。そんな都合のいいものがあるなら、共存だってできるというものである。


「エグいことをいうとだ、この貝、人間の遺伝子を組み込んでいる」

『うわぁ……誰がやったんだよそれ』

「全くだ、最早邪神っていうレベルじゃねえぞ!!」

「お前を引きずり込んだあいつがやらかしてたようだな」

「ロクなことをしていないな。もっともそれで彼らが助かるのならそれはそれでよしとするか」


 邪神はんぎょじんにすら呆れられるタコ野郎、死んでもなお害悪だなあいつは。しかしまぁもっとも、包丁の言う通りとしかいえない。人間の遺伝子を組み込んだとはいえ、こいつら所詮貝だし、はるか彼方の星である。地球に影響はなかろう。


「しかしお前、またこっぴどくやりおったな……ほれ、こいつにちょっと喝を入れてやる!ふん!」


 師匠が気絶していた武魚人に喝を入れ、治療をしている。


「この星はこいつらのモノになるということか、師匠」

「別によかろう?」

「いや全然問題ないが、この星には巣食ってるだろ、ガンが」

「それ始末するのはお前の仕事だ」

「えぇー」


 いや、最初からそのつもりだったけど、なんだろう骨折り損な気もしないでもない。魚人たちが地球攻めないだけ、マシといえばマシではあるけどな。あ、そうそう、とりあえず今から煮付けにしよう、デンキウナギ。

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