第19話



 ウミヘビのスープを寸胴で作っている。ウミガメじゃないぞ。ましてこの味は私の食べたウミガメの味じゃないとか言わないし、自殺だってしない。


 作り方だけは長野ちゃんと相談はしたが、基本的には自分で作る。あの子と近づくのは楽しいけど、近づきすぎるのはなんとなく「今は」危険な気がする。


 強く、ならないといかん。技もパワーもそうだが、マインドでまだ奴らに勝てていない。マインドだけなら、俺たちの中でマギエムが一番強いんじゃないか?もっとも戦闘力ゴミのせいで、あんまり役に立たないけど。


「祭司たちはまだ来ないのか?」

「時間的にはそろそろだな」


 他の住人に祭司の姿はあまりみられたくないので、深夜に来てもらうことにしたのだ。何故かマギエムは乾布摩擦をしている。上半身裸である。


「おい残念半裸、なんで乾布摩擦してるんだ」

「目覚ましだ」


 意外に普通の返答だったんで、俺も特にそれ以上聞く気ならない。長野ちゃんはうつらうつらしている。アレンは机に突っ伏して寝てるし。あれ?アフィラムのヤツいつからいたんだ?


「おいアフィラム、なんでこっちいるんだ?」

「祭司に頼みたいことがありまして」

「……武器ならやめとけ。アレンですらまだまだまともに使えないんだぞ」

「いやそっちじゃなくて、彼にできるかどうかわからないんですか……金属の加工とかについて聞きたいんです」

「なるほど。あのハエスベりヘッドの呪縛から解き放たれたいと」


 自分の嫁の貞操と邪神に依頼、秤にかけるなら邪神に頼んだほうがマシだよな。って言っても祭司は常識人だから特に問題はない気はする。ハゲでも吸ってもらうのも悪くないな、死なない程度限定だが。案外吸ったら真人間になるかもしれない。……その前に食あたりしないといいんだが。


 アホなことを一人で考えていると通信機が鳴った。


『私だ』

「お前だったのか」

『暇を持て余した』

邪神達かみがみの」

『「遊び」』

『なんなんだこの合言葉は』

「あまり気にしないでくれ。それより準備はいいか?」

『このハコに入ってる、この服着るんですか……どうやって着るんだろこれ』


 司書ちゃん(人間形態)が服を着るのに四苦八苦しているようだ。


「長野ちゃん、行って手伝ってくれる?」

「……んー……、あ、わかった」


 入り口のところに長野ちゃんが向かっている間に、他の連中を起こす。


「祭司が来たのか」

「そのようだな」


 アフィラムたちも起きたようだ。ともあれ、祭司を出迎えることとしよう。そういえば、普通だと中には入れないんだよな祭司たち。空を飛べる邪神の類は普通に入ってくるってのは問題だが、祭司たちが入れないってのもまた問題だな。


「祭司たちはどうやって入るつもりだったんだ?」

『そのことだが、最初からは入る気はないぞ』

「入る気はない?」

『そうだ。奴らは入るつもり満々だろうが、私たちは外であることをしてからにする』

「あることとは?」

『……すまん、緊急事態だ!イソノも来てくれ!』


 一体急に何があったのか?急いで祭司たちのところに駆け寄る。祭司たちが何者かに襲われている。……二枚貝だと?巨大な二枚貝が、斧足と水を噴射し続けている。あ、また長野ちゃん濡れてる。司書ちゃんも濡れてるが、もともと邪神イカだしあまりこたえていないようだ。


「こいつは一体……」

『わからん。だが空からいきなり降って来たのだ』


 二枚貝の類の中には、水流噴射で移動するものもいる。ホタテガイなどが代表的存在である。目の前の二枚貝の水流は飛翔できるほどだというのか。


 斧足を振り回し暴れ回る二枚貝だが、どうも様子がおかしい。まるで苦痛にあえいでいるようにも見える。


「祭司!こいつはひょっとして、この貝は何かに乗っ取られているんじゃないか!?」

『そんなことがあり得るのか?』

「包丁!中に何かいないか!」

「ちょっと待て……いるぞ!何かクモのようなやつが!」


 カイヤドリウミグモ!この巨大な貝がこれだけ苦痛ってことは、こいつは……かなりの大物だな。


「あんまり暴れるな!」


 カイヤドリウミグモは二枚貝の天敵で、アサリなどを地域によって絶滅に追い込むほどである。こいつは身体を貝の中に潜めている。

 斧足のそばからクモのような足が見える。見切った!


「ちょっと痛いが我慢しろ!」


 貝の間から出ているクモ足を斬り捨てた。貝の動きがさらに激しくなる。胴体はどこだ?

 ……急に二枚貝が、その身を半開きにした。くっきりとヤツの身体がわかる。


「お前は今から!俺の!夜食だぁ!!」

「また食べるのか」


 そんなことをつぶやく包丁で、ヤツの身体を突き刺した。カイヤドリウミグモ、結構美味いらしい。揚げ物などがオススメだそうである。


 あっさりと絶命したウミグモを取り出し、足から身を出して食べる。貝を食べてるせいか美味いな。


『あ、貝が意識が戻ったみたいです』


 司書ちゃんが何かを感知したのか、そんなことを言う。特に何も言っていないが、なんとなくお礼を言われているように思える。祭司たちみたいに話せるといいのだが。



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