第18話
三葉虫の刺身をつまむ程度に食べていると、アレンがこちらにきた。
「お前も食べる?三葉虫?」
「そんな虫だかみたいなの食べたくないですよ、ナガノさんじゃあるまいし!ところで、メルトリウスさんが呼んでましたよ」
「みんな酷いよー!」
「自業自得だ」
包丁も相変わらず酷いが、そう言われてもまぁ仕方ないよな。しかしメルトリウスは何の用事だろうか。
「なんでも祭司が伝えたいことがあるって、例の連絡機で伝えてきたんです。今はメルトリウスさんと連絡機で話し合ってます」
「祭司が?わかったすぐ行く。長野ちゃん、クラムチャウダーとか任せた」
「三葉虫は?」
「自由にしていいよ。クラムチャウダーだけは食べられる人全員に食べさせて」
「わかった」
長野ちゃんに
メルトリウスのところにはマギエムもいた。マギエムが何やら話しているが、向こうから女の子がイヤそうに話しているが声が聞こえる。司書ちゃん、なんでそんなにマギエム嫌いなんだよ、一応イケメンだぞ。やはり
「メルトリウスか、きたぞ」
「おお。ここ数日の件を祭司さまに話していたところです」
「はっきり言ってここ数日は異常だからな。んで、祭司は?」
『おお、イソノか。また何かあったのか』
「またも何も、黄の王は内部に侵攻するわ大淫婦には不能呼ばわりされるわ古代生物は街中で襲ってくるわで大変だったぞ」
マギエムが怪訝な顔をする。
「イソノは不能ではないと思ったんだが……司書どのに聞いたぞ」
『デリカシーってんですよね!その人に教えてくださいよ!』
「うちの息子が申し訳ない」
「まぁまぁ司書ちゃん。んで祭司、どう思う?」
『結論から言うと、想定以上に奴らの準備は早いな。早ければ明日、遅くとも数日中にその街を落としに来るだろう。だが……メルトリウス、例のものは起動可能なのだな』
例のもの?この街の守りとか言ってたやつか。
「可能です。私も腹をくくらないとなりませんが」
『それには及ばん。私も手伝おう』
「おお……なんと。しかし、あなたが街に来るのは……」
『うちの司書に擬態してもらおう。私はハコにでも入っておこう』
「擬態はいいが服は着ておいてくれ」
『あなたにだけは言われたくありません!!』
祭司が何やら手伝いに来てくれるのか。なんにせよ助かる。しかしハコに入って潜入って、そんなゲームなかったっけ?にしてもマギエム、お前だけは司書ちゃんにそれ言う権利ないからな!
「それにしても想定より異常に早くないか連中。最初はもっと時間かけて落とそうとしてたようだが」
『またこっちの周囲に信奉者がいたので捕まえて吸ってみたんだが、核兵器、こちらにもあるらしい』
「んなっ!!」
どういうことだよ連中、核兵器なんか持ち込んだんかよ。使いこなせないだろそんなん。
「核兵器だと!?どういうタイプだ!?」
『核兵器にも種類があるのか』
「ああ。一応一番ちっこいやつは持ち運びできる。デカイやつは威力の代償に輸送用の機械、飛行機ってあるんだが、それですら運べない。俺の知ってる多くはミサイルって飛ばす道具に乗っけてる」
『そこまではわからんな。すまん』
「いや、気にすんな。それがわかっただけでもすごい。ありがとう祭司」
核兵器持ち込んでどうにかするとか邪神かよ黄の王とかは。邪神だったけど。
『ここに至ってはもう邪神だ人間だと言っていられない。そちらがイヤでもヤツらを止めるのを手伝わせてもらう』
「馬鹿!イヤなわけないだろう!」
『イソノさんはイヤじゃなくても、他の人が嫌なんじゃないですか?』
「司書ちゃん……そんなやついたら、髪の毛全部毟ってやるから安心してくれ」
『ふふっ、ありがとうございます』
「特定個人を指してるとしか思えないんだが、その発言」
実際、特定個人をイメージして発言したからな。君の読みは正しいよ、包丁くん。それにしても連中、核兵器なんぞ何に使うつもりだ?人類虐殺してもエネルギー源にできんぞ。
色々と気にはなるが、祭司たちと合流して共闘できるのは助かる。彼らが黄の王より格下であっても、あちら側の情報がないよりはるかにありがたい。
戻ってみると、
「みんな、売り上げはどうだ」
「売り上げって言っても実質配給に追加でしょ?だいたい街の半分くらいの人が食べた勘定だよ」
長野ちゃんの帳簿を見て軽く嘆息する。
「……やっぱり引かれてるなぁ……」
「もともとそういう習慣ないところから始めてるわけだから、厳しいよ」
「……そういや三葉虫どうしたの?」
「端っこで焼いて食べてみたんだけど、全然売れない」
「三葉虫とかは建物含め完全に別にしないとダメじゃないか?」
クラムチャウダーだけなら、まだそこまで文句でなかろう(配給少ないからこれでも結構並んでそうだが)。しかし三葉虫は上級者向けすぎる。あんなもん食うの俺か長野ちゃんクラスだろ。悪くはないけど。悪くなかったけど。
焼き三葉虫に手を伸ばす。味噌焼きにしたら結構イケる。柑橘系プラス醤油の方がエグ味が消えてなおいいな。あ、ちゃんと背ワタとってる。長野ちゃんは料理が丁寧だな。
「……こうも丁寧に料理されると、どうも俺が逞しさを取り戻そうというのは間違っているんじゃないかという気になるな」
「間違っているんじゃないかじゃなく、間違っている!断言するが」
包丁にアイデンティティを否定された。何故だ、何故否定されねばならない。しかし……。
食堂の方から氷塊の方まであるいてきた。かなり溶けてきている。守衛が数人いるが、様子に違いはないという。宵闇とともに磯の香りが強くなってくる。また来る気か、性懲りも無く。
「……妙だな」
「何が、だ?」
「前にウナギが来た時あったと思うが」
「ああ、司書ちゃんの貞操が危なかったとき?」
「……何か違うがまぁいい。その時に近い感覚を感じる。それとは別に……」
またウナギかよ。どうせなら日本に攻めてくりゃいいのに。攻めて来るなら喰うのに文句言われ……いややっぱり言われそうだな。周囲を見渡す。黒い影が複数蠢く。触手か?
「気をつけろ!ウミヘビだ!」
「なっ!」
「ウミヘビの中には毒持ちも多い!噛まれたら死ぬ可能性がある!俺以外は遠くから攻撃してくれ!」
投石や槍などでウミヘビを狙う。中々当たらないが、ウミヘビもウネウネと近づこうとしつつ、こちらにも近寄れない感じである。守衛の一人が長野ちゃんを呼びに行ってくれたようだ。ピナーカあれば何とかなるな。
一体のウミヘビが守衛に飛びかかって、噛み付いた!くそ!やられた……ってこいつは?
「そっちも来てんのか!捌くぞ!」
頭を斬り落とす。
「あの、ど、毒は……」
「大丈夫だ。ちょっと痛いかもしれんが、普通の消毒さえしとけば大丈夫だ。毒はない魚の方のウミヘビか」
「はぁ……」
「しかし奥の奴だけは絶対噛まれるな!あいつは猛毒のウミヘビだ!」
縞模様が毒々しい大型のエラブウミヘビは、こちらを始末しようと襲いかかるタイミングを狙っている。長野ちゃんまだ来れないのか?
「始末するしかないな、ちょっと下がってろ!代わりに槍借りるぞ!」
噛まれた守衛を下げつつ、彼の槍を借りる。槍を構え、ウミヘビに近づく。槍の穂先をヤツの頭を近づける。槍の穂先にヤツが食いつく。
「残念だったな」
その瞬間に俺は距離を詰め、今度もヤツが食いついたままの頭を斬り落とすことができた。
「気をつけろ!もう一匹が!」
「そうだったな!」
襲いかかって来たウミヘビに、仲間の首をぶん投げた。ヤツが怯んだ瞬間、ヤツの両目はもう何も見えなくなっていたことだろう。俺が、包丁で串刺しにしたからな。そのままトドメをさす。
「ウミヘビだが、俺たちの元いた世界の沖縄ってとこではよく食べられていたな」
「食べるんですかこれ」
「食べるよ。スープに入れたり、卵炒めにしたりするな」
守衛の人たちがドン引きしているが、他の食材に比べたら大したことはない。後で長野ちゃんに料理してもら……それだよ!それが俺からハングリー精神を失わせてんだよ!
「ウミヘビ、もう倒しちゃったの?」
倒してしまった後に長野ちゃんが到着した模様だ。もう少し早く来てくれたらなぁ……といっても食堂あるし。
「まぁな」
「これも食べるの?」
「そのつもりだけど」
「どうやって食べるのかなぁ……」
「ウミヘビスープかチャンプルだなぁ」
「じゃあ早速」
「長野ちゃん、料理、教えてくれる?」
「?いいけど……どうしたの、思いつめた顔して」
他人任せってのはハングリー精神をどんどん失わせる気がする。目覚めさせないと、ハングリー精神を。
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