第17話



 大量の邪神しょくざいが手に入ったはいいけど、どうするか。エビもイカも食べるとするなら……


「長野ちゃん長野ちゃん」

「なに、ED磯野さん」

「ED違うし。エビとイカをまとめてたくさんの人に食わせるとしたらやはりアレかね」

「アレしかないでしょ」

「材料ある?」

「うーん、かなり裏ワザ使わないと厳しいかも」


 裏ワザ?なんだろ。俺たちのアタマの中にあるメニューに間違いは無いと思うが、材料の不足は気になるな。


 マギエムとアレンたちにイカとエビを洗ってもらいつつ、メルトリウスに食材を貰いに行く。


「メルトリウス」

「おお、戻られましたか。して、戦果は」

「エビ20体と無数のホタルイカ」

「ホタルイカ?」

「生食したら危ないが、茹でて食べるぶんには問題ないちっこいイカだ。ハンパなくある」


 ホタルイカだが、寄生虫がいるので生食はオススメしない。マイナス30度で冷凍できるなら別であるが。


「ふむ。それで、どうやって食べますかな」

「乳製品ってあるか?」

「あるにはありますが、さすがにそこまでの量は……」


 やはりか。ここは長野ちゃんの裏ワザに期待するしかない。


「なら香辛料とかを頼む。で、邪神食の比較調査の結果だが、有意というレベルじゃない。通常の邪神、祭司いうところの端末なら一般人でも十分対抗できる」

「ほほう。つまり私でも邪神を倒せる可能性があると?」

「そうだがメルトリウスに怪我でもされたらたまらん」

「それは残念ですな」


 ヤル気満々だな。もっとも一杯喰ったくらいだとダメかもしれんので邪神食をもっと行わないといかん。


「して、今回のメニューは?」

邪神壁にまいがいとイカとエビのクラムチャウダーだ」

「クラムチャウダー?」

「スープみたいなもんだよ」


 氷の周囲に邪神壁としてイガイのような二枚貝が大量に進出していたのを目撃したので、さっそく採取して砂抜きした。案の定邪神壁は後退しはじめた。食材提供するようなもんだからな人類に。もっともこれまでは、こんな片っ端から襲って喰われることはなかっただろうが。


 濃厚なチーズを入手して、長野ちゃんに渡す。仕込みが済んだらまた一狩行かねば。


邪神かいさんぶつ食初心者にはそんなとこでいいだろう。しかし俺には物足りないんだよな」

「この上何を喰いたいんだお前は」

「こっちに来た頃の、新鮮な邪神あいつらをワイルドに味わっていた、あの感覚が最近足りてないんだよ」

「そんな感覚は永久に忘れてろ」


 ボロクソに包丁には罵られているが、最近どうも文明があるのが俺自身当たり前みたいに感じていて、それがマズいなと思うのだ。


 あの終焉の地の生死をかけたギリギリ感、それが足りてない。そしてそんなギリギリのところで味わったあの邪神しょくざいの味。


「というわけでだ、もう一狩り行きたい」

「えー。またいくのー?」


 長野ちゃんには頗るイヤそうな顔をされるが、忘れかけていた感覚を取り戻さないと、黄の王や大淫婦に勝てる気がしない。


 突然、氷塊の方から、また前に感じたあの磯の匂いがする。包丁も震えだす。カルデラの中だぞ!もう邪神のいないところはないのか。


「こいつはこっちから出向く手間が省けたな」

「かなりの数が来ているぞ」


 果たして、氷塊を避けるように黒い影がこちらに迫って来ている。無数の脚がある。エラのようなものが広がっている。


「三葉虫だと!?」

「相当大物だよ!」


 長野ちゃんが駆け出して、三葉虫にピナーカを突き立てようとした瞬間、もう一つの黒い影が襲いかかって来たのを俺は見逃さなかった。やむなく長野ちゃんを突きとばす。そのまま二人とももんどりうって倒れ込んでしまった。


「油断すんなよ!」

「ごめん!でも、どいてよ」


 あかん。転がって抱きあうようなカッコになっちゃってるやん。思わず二人とも赤面する。


「……EDじゃないんだ」

「ん?なんか言ったか!」

「何にも言ってない!今のは何!?」


 黒い影はよく見ると、こちらも三葉虫のようにも見える。しかし、今飛ばなかったか?


「まさかこんなのもいるのか……三葉虫め……それにしても、襲ってくるなら!」

「やることは一つだな」


 包丁に言われるまでもない。飛び回り襲って来た三葉虫に包丁を突き立てる。背後に黒い影が!もう一匹いるだと!くそっ、油断したか!


「うかうかしてちゃダメでしょ!」


 ピナーカがもう1匹の三葉虫に突き刺さる。そのまま動かなくなった。


「申し訳ない」

「貸し借りなしだからね!」


 襲いくる三葉虫を次々斬り飛ばす。一匹一匹はそう強くはない。しかし、これだけの数が来るのはキツいぞ。10や20じゃない数が次々と襲って来る。


「……長野ちゃん、何匹やった?」

「20は超えてるよ……」

「このままだとさすがに持たんぞ!」


 包丁のいうとおり、体力がじわじわ削られる。精神もキツい。


「イソノさん!」

「援護に来ました!!」


 アレンたちも来てくれたか!助かる!数には数だ!いざ、反撃だと再攻撃を始めようとした時、ヤツらは引き始めた。


 さすがに疲れた。思わず長野ちゃんと二人、背中合わせに座り込んでしまう。


「……ずいぶん倒したな」

「はぁ……はぁ……50は……超えてるよ」

「三葉虫って……美味いかな」

「……ザザ虫っぽいから多分イケるね……」


 それでこそ長野ちゃんだよな。ちょっとだけ刺身で食べてみる。エビ……よりはカブトガニよりだなぁ……ウミサソリのが俺は好みかもしれない。


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