第16話
荷車に先程のエビを乗せ、一路帰路に向かう。バルゼブのおっさんもエビと一緒に運んでいると、やっこさん、どうやら意識が戻ってきたようだ。
「……んな、なんだこれは!くっ、臭い!」
「気がついたか」
「私は一体どうなって……ってなんだこいつらぁ!!」
エビに囲まれているというのはいいもんじゃないだろうが、おっさん運ぶのに背中に背負うとかイヤだからな。おらとっとと起きてキリキリ歩け。
「ん?イヤか?泣くのがイヤなら、さぁ歩け」
「言われなくても歩くぞ、こいつらと一緒とかイヤにも程がある」
「あーあとこれ、今日の夕食な」
「夕食ぅ!?」
こちらの世界の人間からしたら、嫌がらせ以外のなんでもないかもしれんな。しかし、慣れたらなんてことはないし、むしろ美味いだろうが。
「しかしだな、こんなものを食べて身体を壊したら」
「壊すわけねーよ、こっちの連中にはオレが散々食わせたし、だいたい俺も喰いまくってるだろ」
カイロスたちを指差す。皆でから揚げ串を食べているが、あのから揚げの具材がウーパールーパーなのを彼らはまだ知らない。
「ちなみに連中が今食べているのも邪神」
「なん……だと……!?」
バルゼブのおっさん、ドン引きしている。周りの連中が気がついたら邪神喰らいと化しているのだ。その恐怖たるや想像するに余りある。
「あーそうそう」
俺は小声で、おっさんのロストグラウンドに語りかける。
「おっさんの
「……んなっ!!」
「美味しい美味しいって言って食べてたぞ邪神」
「確かに喰ってたな。アフィラムよりたくさん食ってた」
包丁のいうとおり、実際アフィラムより積極的に喰ってたくらいである。おっさんの顔色が赤紫になっていく。
「うぐううぅぅ」
おいおいそんなに怒ったら脳梗塞まっしぐらだぞ。青魚食べるか?自分の好きな女の子の食の趣味が、ちょっとだけいいセンスなだけじゃん。それすらダメなら付き合うのやめとけば?
先行していたアレンが走ってきた。走ってきたせいか顔が赤い。しかし変な走り方してるな。
「イソノさん!手前に邪神らしいヤツがいたんですが、妙なんです」
「妙なのはその変な走り方だろ」
「それも含めて変なんですよ!」
意味がわからん。ハッキリ言ってくれ。
「最初、遠くの方で全裸の女性がこちらに手招きしてたように見えたんです」
「アレンくん、若いからってそういう妄想はよくないと思うな」
長野ちゃん、多分それは違うぞ。おそらくは、あいつだ。
「そんなんじゃないです!思わず、うっ、と思った次の瞬間、巨大なイカの群体が現れたんですよ!」
「やっぱり大淫婦か!」
「いつかは来るとは思っていたが」
「ヤツがにじり寄って来るんですが、目ではイカにしか見えないのに下半身が……なんなんですか!あいつは!」
包丁じゃないが、先々来ると思っていたが想定以上に早い。それにしても、アレンの不快感もよくわかる。イカに下半身刺激させられるとか、精神的に不快だというレベル超えてるぞ。
「しかしなんで勃っちゃうんだろ」
「ワザと言わなかったのに言わないでください」
ほんとだよ長野ちゃん。やめてやれよ可哀想だからアレンが。
ふと横を見るとバルゼブがいやらしい笑みを浮かべている。キモいからやめろよ……しかしなんでだ?
「おいこら砂漠ヘッド、何キモい笑みを浮かべて顔紅潮させてんだよ変態か!」
「へへ……へへ、へへ……」
「精神干渉だ!しかも多分性的欲求を解放させるタイプの!」
おそらく包丁のいうとおりなんだろうが、おっさんのアヘ顔とか危険物級だろ。クソ大淫婦めなんて精神的ダメージを与えてくんだよ!
隣ではアレンがヘタレ込んでいる。
「見た目イカにしか見えないのに、なんでこんなんなってんだよ!」
うーわ、中途半端に精神干渉受けて却って悲惨なことになってる。おっさんみたいに完全にハマれたら幸せなんだろうが……
アフィラムもその口か。一生懸命精神干渉に抵抗しているが、いつまでたえられることか。お、おい、槍で足刺したぞ!痛いだろやめろよ!!
「私は妻帯者なもんでな、お前に私の貞操は渡せん!」
「かっこいい事言ってるけど!太ももって動脈走ってて失血死しかねんからやめろよぉ!!」
「えっ」
知らないって怖いな……。しかしそれにしても本体はどこだよ。まだ全然見当たらないんだけど。
「いたぞ!あそこだ!」
包丁のさけび声で気がつく。コウイカのようなヤツが中央に、その周りを無数のホタルイカが取り囲み光を放っている。……なるほど親子だな。
『さぁ、私と一つになりましょう』
「なんでイカと前後運動しなきゃいけないんだよ変態かよ」
『えっ』
大淫婦、どうやら精神干渉で絶頂させてる間に捕食するタイプの生物らしいが、理由はわからんが俺には無効なようだ。
「長野ちゃん、あれなんに見える?」
「小さいイカとでっかいイカ」
「だよな」
長野ちゃんも無効化しているようだ。威圧感は無くはないけど、黄の王に比べたら大したことはない。
『お前は私の姿を見てもなんとも思わないのか!?』
「うん」
『もしかして……勃たない病気?』
「ちげーよ!!」
邪神に対して食欲ではなく殺意を覚えたのはこれで2回めだ。ふざけんなよてめぇ!ぶった斬る!
「イスカリオテぇ!行くぞおおっ!!」
「そんなので気合い入れられても、こっちは気合い入らんぞ」
「まぁそう言わない。せっかく磯野さんがやる気出してんだから」
気合いが足りない包丁で、無数のホタルイカを叩き切り続ける。なかなか本体に届かない。
不意に、足元を掴まれた。ちょっと待てバルゼブのおっさん!何してんだよ危ないだろうが!
「へへ……へへ……」
「何してんだよ!毟るぞおっさん!!」
俺はおっさんの残り少ない頭髪を容赦なく毟った。頭髪から激痛を感じたのか、バルゼブが目を覚ます。
「はっ!私は何を!ってなんだこいつはぁ!」
「さっきおっさんが欲情してた相手だよ!」
「こんなの相手に……うっ、なんかぬるっと」
「それ以上言うんじゃねぇよぉ!!」
ヤケクソで放った斬撃が、浅いものの大淫婦に一撃を浴びせられたようだ。
『くっ……遊びに来たのに怪我したんじゃ元も子もないわね』
「とっとと帰れよバーカ」
『次は籠絡してあげるわ。不能さん』
「不能じゃねぇよぉ!!喰い殺すぞ次はぁ!」
果たして大量のホタルイカを残しつつ、大淫婦は姿を消した。ホタルイカは茹でて喰うか。美味いんだよなこれ。春先の日本海側でよく採れる。
「人をEDみたいに言いやがって!次はてめぇから喰うぞ大淫婦!」
「どっちの意味で?」
「食的な意味に決まってんだろ長野ちゃん!!」
「もしかして……ED?」
「いい加減にしろ長野ちゃん!襲うぞ!!」
「とうとう人間まで食べようするとは」
「おまえもいい加減にしろよ包丁ぉ!!」
どいつもこいつも人をEDみたいに言いやがって!これから毎日カキ喰ってやる!なお俺の息子(比喩的表現)は朝から元気ではある。相手?いねぇよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます