第15話



 打倒バルゼブで一致団結した俺たちは、唐揚げ串を片手に集合地点に集まることにした。果たしてヤツは後光を、もとい額を輝かせながら待ち構えていやがった。


「遅かったではないですか勇者様たち。てっきり人数が集められないかと思いましたよ」

「へー、そっちも外に出るってことを恐れないヤツがそんだけいるんだ。いやみんな大したもんだよ」


 相手チームに露骨にイヤな顔をされる。そんなに嫌味に聞こえたのか?一体何で釣ってこんなに集めやがったんだヤツは。集められた男達は、果たしてどこか陰を帯びたオーラを放っている。バルゼブに対して借金というか借りというか作ってる、まぁそんなもんだろうなぁ。


「多分この人ら、あいつに借りがあるんだろ?」


 俺はアフィラムに耳打ちする。


「そうですよ。気をつけないとみんなああなります」

「……そうなったら闇討ちでもするか」

「人間斬るなら別の武器を使え。私は降りる」

「お前の助けは要らん。全部毟るだけだ。もっとも月の出てる時はやめとくよ、眩しそうだ」


 小声でロクでもない不毛な会話を交わす。不毛なのはヤツの頭か。


「おや、どうされました?急に不安にでも?」

「そういや、お前さんはついてくるのか?まさか来ないってことはないよな?」

「まさか、私はあなた方とは違うんですよ?そんな恐ろしいことよくできません」

「そっか。ならこいつ貸してやろうか?」


 どうせそんなことをいうんだろうな、と思っていたら案の上である。お前の言ったことじゃないか、武器あればなんとかなるってな。


「自衛の武器があったら、さすがに怖くないよな?」

「……え?」

「おい、こんな奴に渡されても困るぞ!」


 困惑するバルゼブと包丁。


「え?まさか、武器あってもダメなんですかぁ?話が違いませんかぁ?」

「んな!なんなんですかあんたは!」

「いや、先ほど言ってたじゃないか。あー武器があったらなー、俺だって対抗できるのになーとか」

「そんなことは言ってない!あんたは本当に勇者なのか!?」

「おやおやそんなに怖いんでちゅかー、邪神。そうでちゅかー。じゃあ家に帰って指しゃぶって寝たほうがいいでちゅねー」

「てんめぇ!!」


 化けの皮が剥がれてきたな。もうひと押しってところか。


「ナメくさったこと抜かしてんじゃねぇぞ!いつでも潰せるんだからなガキが!」

「ふーん。でも邪神は怖いんでちゅねー」


 やっこさんの額の血管が浮かび上がる。しかし残念ながら怒髪天はつけないようである。その方向には毛がないから。


「まぁさ、そのへんにしときなよイソノ」

「え、なんでこんな奴庇うのフィオナ」

「いやだって、実は行く気満々なのに行けなかったらかわいそう」

「でもおっさん行かないって言ってたじゃん」

「外で邪神に対抗して、人々のために身体張る人ってカッコいいよね」

「そうなのか?」


 なんか変な風向きになってきたな。両陣営の一同、困惑の表情しか浮かんでいない。


「そういう人には心惹かれるよねやっぱり」

「この人悪女でしょ絶対」


 長野ちゃん、そんなこと耳打ちされても返答に困るからやめて。フィオナがアフィラムに目配せするが、それでもなおアフィラムがオロオロしている。演技とわかっててもなぁ。俺もなんか辛い。


「ま、ま、まぁな。そいつにも分からせてやらないといけないな、し、仕方ない。私も出向こう」


 おっさんが単純すぎて乾いた笑いしか出ない。なんでもいい、対抗戦の始まりだ。


「さて、ルールはシンプルだ。邪神の側に両チームが接近する。近づけた方が多いほうが勝ち。でも体調が悪くなったらすぐ撤退してくれ。逆にできるヤツは邪神仕留めてもいいぞ」

「そんな無茶な」


 ざわつくバルゼブチーム。命の危険ある上、さらに無茶振りでは引くしかないか。


「アフィラムは1匹がノルマな」

「そんな!!」

「アレンはいるなら10匹目指せ」

「幾ら何でも死にます!」

「長野ちゃんはアレンのトレーニングのために、3匹くらいにしといてね」

「ミユキならもっとやれると思うが」


 相手チームのざわつきがさらに大きくなる。


「なんなのあいつら、頭おかしいのか?」

「おまけに邪神を喰ってるらしいぞ……」

「もう人間じゃねぇ……」


 聞こえるように言わないでくれ。やっぱりこの世界の人間は失礼な連中が多いことが再確認できた。


 半泣きになりながら、荷車を引きつつ邪神を求めて山の周囲を移動すると、僅かに磯の匂いがしてきた。


「邪神がいるようだが……いや、これはうまく隠れているな。何体いるかわからんが、ここは通らない方がよさそうだ」

「迂回して上から攻めるか」

「おやおや、邪神と戦うのではなかったですか?」


 いつものように包丁と作戦会議していると、急にバルゼブがつっかかってきやがる。さすがにこいつうぜぇ、そう思うようになってきた。一部は俺が原因だが。


「そのために迂回して奇襲すんだよ」

「つまりだまし討ちですか。いやいや、邪神相手にするとは大変ですねー」


 多分、俺をはたからみたらイラついてるのがわかったことだろう。要はこいつ『まともに相手できないから奇襲しかできないんでしょ?』と言いたいのか?


「長野ちゃん、耳貸して」

「後で利子つけて返して」

「マイナス金利?」

「ちがう!それよりなに?」


 長野ちゃんに耳打ちする。それとなく長野ちゃんたちが移動を開始するのを確認すると、俺は皮肉たっぷりに、バルゼブに嘲るように言い返す。


「そうだなー、大変だなー。いやー邪神との戦いは大変だー。そんなにいうなら……」


 俺は不意に接近し、包丁の刃先をヤツに向ける。ヤツがギョッとしたのがわかった。鈍い光がヤツの頭頂部を照らす。


「勇敢なバルゼブ様にもお手伝いしてもらおうか」

「もっともだな。奇襲をするなっていうならそうなる」

「な、な……」


 俺がいうのもなんだが、包丁お前性格悪いだろ。


「俺の前を歩いてもらおうか」


 ヤツの後頭部に包丁を突き立てる。髪の毛がハラリと落ちる。邪神未食組はオロオロしているようだが、俺が怖いのかバルゼブがムカつくのか、動こうとはしない。


「ま、まさか斬ったりするんじゃないだろうな、な?」

「さぁな」

「隘路になっている。どれだけ攻撃されるか見ものだな」


 俺と包丁がバルゼブの督戦を行い、ヤツが震えながら前に進む。急に、ヤツのアタマが濡れた。いや、一度ならずすごい勢いで水が浴びせられる。結構な水圧だ。


「ブフォ!な、なにが!」


 俺たちにも訳がわからない。しかし確実なのは、水を飛ばしてくる連中がこの近くにいるということだ。


「前のテッポウエビみたいだな。連射速度は速いが」

「いるぞ!前に10以上!」


 水鉄砲を連射され悶絶するバルゼブシールドを利用しつつ、ヤツらに接近する。悶絶している間に奴の身体に上着の袖を結んだ。逃がさんぞ人間シールド。


「い、いきが!できん!」

「喋らずキリキリ歩け!もっと浴びせられるぞ!」

「たいした威力じゃないな。速さはともかく」


 包丁のいうとおり、連射はしてくるがそれだけだ。頭から脚までべちゃべちゃのバルゼブシールドで接近していくと、ついに連射しているエビどもを発見した。


「マシンガン・シュリンプか!通りで連射してくる訳だ!」

「なんだそいつらは」

「テッポウエビのように水を飛ばすが、両方のハサミを使うので連射速度が高いんだ。威力はテッポウエビより弱いけどな」


 猛烈に水をぶっかけられつつ、とうとう無言でトボトボと歩くようになったバルゼブ。ヤツの背後からエビに近づく。


「うっ」


 小さくバルゼブが呻くと、ヤツは倒れ込んでしまった。くそ!盾が壊れた!邪神の精神干渉だ!


「だがこの距離なら!長野ちゃん!アレン!カイロス!あとアフィラム!」

「なんで私だけおまけみたいに」

「言ってろ!」


 カイロスたちも遠くから投石を始めた。反対側から長野ちゃんたちが攻め込む。果たして、挟撃していたはずのマシンガンズ、逆にハサミ返されることに。


「ちべたっ!やりやがったねこいつ!」

「終焉の地のテッポウエビよりはマシですよ!」

「うそ、こいつらより強いの!」

「当たったら胴体に大穴開きそうでしたよ!」

「怖すぎる!終焉の地怖いよぉ!」


 結構濡れちゃった長野ちゃんが、何か叫びながらピナーカぶん回して二匹始末する。薙刀もできるんだ長野ちゃん。敵に回したくない。


「ナガノさん!全部倒さないでくださいぃ!」

「マスター!落ち着いてやればできます!」


 駆けつけてきたアレンも慌てて二匹斬り捨てる。こいつら接近戦弱すぎだろ。おまけに皮も対して硬くない。


「つ、強い!強すぎる!」

「やはり勇者様たちは別格だ……」


 後ろの方で邪神未食組が俺たちに恐れをなしている。だがな。


「アフィラム!俺たちもやろう!」

「ま、待て!そいつは私のノルマだ!」


 投石を終わらせたアフィラムとカイロスが、槍で1匹のマシンガン・シュリンプの心臓を貫く。


「アフィラムー!共同で倒したら0.5だぞー!」

「あと1匹かもう一度共同で倒すことだ」

「イスカリオテまで!」


 ブツブツ言いつつ次の獲物を狙うアフィラム。邪神を襲撃する他の邪神奇食、もとい既食組も昏倒する気配は全くない。精神干渉がないとこうなるのか。


 果たして20体ほどの邪神えびは全て大地に転がった。この戦いは人類おれたちの勝利だ。怪我人等の犠牲も特に出ていない(バルゼブ除く)。


「アレンー!何体やった?」

「6ですよ……ナガノさんと同じです……」

「長野ちゃんやりすぎだ!アレンに残しとけよ」

「美味しそうだったんで、つい」

「浮気者め」

「え、でもエビと虫って似てない?」

「ナガノも相変わらずですね……」


 全くだ。アフィラムじゃないけど、そんなこと言うんじゃないよ長野ちゃん、明日からエビが美味しく感じられなくなるだろうが。あ、でもバッタ意外に美味しかったな。……ヤバい、俺も長野ちゃんの精神干渉こんちゅうしょくの悪影響をうけている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る