第13話



 アレンが気がついたようだ。目をパチクリさせてやがる。お前が寝てる間に終わったよと言いたい気もするが、ぶっちゃけ普通のこっちの人間だと気絶じゃ済まないのか?俺や長野ちゃんでもビビったからなぁあいつ。


 あれ、ちょっと待てよ?


「おい、マギエム、ちょっと聞きたいんだが、あ、その前に服は着ろ」

「仕方ないな」


 つくづく残念そうに服を着るマギエム。いやお前、人類だったら服を着て当たり前だろうが。


「それで、話とは?」

「お前黄の王相手でも平気とかどうしてなんだよ。流石の俺もちょっとビビったんだが」

「ふむ」


 若干思案するような表情で、斜め上を見上げるようにするマギエム。


「そういえばなんともなかったな」

「なんともなかったってお前」

「……こいつもある意味お前と同類だ。適性はお前と同等かお前以上だが、やる気が全くない」


 やる気が全くないってどういうことさ包丁。


「邪神と戦う気が全くない、そういうやつだ」

「やる気も何も、自慢じゃないがケンカとか凄まじく弱いぞ私は」


 本当に自慢にならんなそれは!まぁそらケンカ弱かったらやる気になれんだろ。俺も自身がそこまで強いとは思わないけど、全裸マギエムには負ける気がなぜかしない。


「邪神耐性だけは異常に高い、しかし戦闘能力皆無ってこと?」

「よしわかった、お前人間の盾になろう、な」


 長野ちゃんにも呆れられている。戦闘力だけでいうなら長野ちゃんのが圧倒的だろうからなぁ。


「しかしマギエム、お前なんでそんなに耐性高いんだよ。海産物とかこっちの人間は喰わないはずだろうが」

「耐性というより最早毒物扱いのようだったぞ、大淫婦の娘などの反応見る限り」


 俺もこいつにはいつも大概だが包丁、おまえいくらなんでも言い過ぎ、ってかヒョウモンダコの同類かよ。……あいつどうやって喰ってやろうか。ヤツはどうしているかな。


「それは……今はもう死んだ私の妻に関係するのかもしれないです」

「メルトリウス!さっき黄の王が現れたぞ!」

「なんと……よくご無事で」

「まぁ相手もこちらをナメてかかってたが、この残念全裸のおかげで助かった」

「ウチの息子がなんか申し訳ない」


 本当だよ、おまえどういう教育してたんだ。でも死んだ妻に関係とはどういうことだよ。


「母もこの世界の人間ではなかったからな。私の髪は父と同じだが、母の髪は黒」

「……それって……長野ちゃん」

「私たちと同じ日本人!?」

「左様です」


 なんてこった。マギエムも日本人の血筋かよ。ハーフだけど。しかも日本人がこんなんと思われてたとかどうなんだろう。さすがにちょっと頭が痛くなってくる。


「まさかと思うが脱ぎグセとかなかっただろうな、マギエム母」

「私の知る限りないぞ。だいたい私に脱ぎグセなんぞないが」

「おまえと会ってる時の9割服着てないんだけどな」

「というよりマギエムさんが服着てるの初めて見たんだけど、さっき」


 ほれみろ、長野ちゃんも同じ感想じゃないか。


「あの……普段はそういうことはなかったのですが、酔うと……」


 メルトリウス、また微妙なラインをついてくるな。遺伝子仕事すんなよ、そんな方向に。


「まさかあんたも」

「そんなわけないでしょう!だいたい服脱いでるの見たことないじゃないですか!」

「そりゃすまんかった。でもよ、頼むから服着せてくれよそいつに」

「そんなに全裸イメージ付けられても困るんだが……」

「司書ちゃん情報だけど、おまえのせいで邪神の間で俺が全裸包丁邪神イーターになってんだぞ!」

「半分以上は自業自得ではないか」


 くっそ腹立つけど事実なのがムカつく。しかし邪神耐性がこれだけ高いなら、多分武器使えるだろうに……戦力外か……


「メルトリウス様、ここですか?邪神を食べさせようとかいうバカなことを言ってる者たちの『食堂』とやらは?」


 ん?なんか出てきたな。誰だよこいつ。


「メルトリウス、こちらの解放感にあふれた額の持ち主は?」

「か、解放感!?」

「イソノ様、こちらはバルゼブです。街の取りまとめを手伝って貰っています」

「そうか。よろしく」


 俺は一応、気のない調子で手を差し出した。しかしヤツはその手を無視した。


「バルゼブ、こちらはナガノ様と同じ勇者だぞ!実際邪神がこうなっているのを見ろ!」


 メルトリウスが解体中のウーパールーパーとウミサソリを指差す。


「ふーん。勇者、ねぇ……」


 なんなんだよこいつは。まぁ今まで敵対する人間がいなかったのが不思議なくらいだけど。


「言いたいことあるならはっきり言ったらいいだろう」


 包丁が俺たちの気持ちを代弁してくれた。


「んじゃ言わせてもらいますけどね」

「おう」

「そりゃあんたたちは邪神と渡り合えるくらい強いんだろうさ。だがその強さってなんだよ」

「強さ」

「あんたらが持ってる武器次第なんじゃないの?それがあったらそりゃ化け物も狩れるわな」


 武器さえあれば、ねぇ。実際こちらの人間で適性もあり、ガッツもあるアレンですら耐性をつけるまで相当苦労してるのによ。それですら黄の王の前では……


「それにだ。なんで邪神なんぞを喰わないといけない?」

「父に聞いてないのか?海産物を食し続けると邪神に対する耐性がつくことは、それまで十分戦えなかったこの少年が覆している」


 残念イケメンがちゃんとしたイケメンっぽいこと言ってる。服を着て。俺は嬉し涙が出そうだったが我慢した。


「そんな、食べるだけで邪神に勝てるなんて虫のいい話があると?はん、馬鹿馬鹿しい」

「それでは伺いたいのだがバルゼブ、あなたはどのようにこの難局に対処を?」

「さぁ、それこそ勇者様のお仕事では?ただ勇者様のやることだからって馬鹿なことをやるなら批判させてもらいますよ」


 丁寧なピナーカの質問に対し、なんともまあな返答をヤツが返す。ちょっとイラっと来てるが、隣で爆発しそうな長野ちゃんを見て、逆に冷静になる。長野ちゃんに耳打ちする。


「長野ちゃん、こいつ、いっつもこんなんなの?」

「まぁそうね……普段はここまでじゃないんだけど」


 とはいえだ。俺がいうのもなんだが、このハ◯ー!のいうことにも一理なくはない。


「おい額フリーダムヘアスタイル」

「ひ、額フリーダム!?」

「さすがにストレートすぎるよ!」


 長野ちゃんにつっこまれてしまったが、君のが爆発しそうだったんだけど。


「確かに、こんな突拍子もない話を信じろってのもムリがあるな」

「おや、これはこれは。さすが勇者様、ご理解いただけましたか」

「だとしたらだ。実際に効果があるかどうか実験する必要があるな」

「じ、じっけん!?」

「そういえばイソノたちは研究者だったと言っていたな。何事も実験か」

「し、しかし……実験とは何をするんでしょうか」


 ヤツの遮るもののない額から大量の脂汗が滴り落ちてくる。


「簡単なことだ。海産物をしばらく食べたグループと食べないグループで、邪神と相対した際の反応を比較する」

「n数は?」

「有意差とるためには最低でも20ずつくらいは欲しいかな」

「そ、そんなに邪神と渡り合いたい人間はいませんよ!!」

「補佐の人間なんだろ?ちょっとお散歩するだけの人間集める才覚すらないの?残念だなぁ……」


 死せる額の毛根がイラっと来たのがよくわかる。よし、引っかかったぞ。


「でも、邪神を食べてる人ってどうやって集めるの?」

「食べさせたヤツはいる」

「そんな人いたっけ?」


 いたじゃないか。例えば多分みんな忘れてると思うが、存在感が希薄な家族持ちとか。


「というわけで。早いとこ人数集めて邪神耐性実験をはじめようぜ」

「し、しかし邪神相手にそんな危険なことを……」

「どのみち攻めて来かねんぞ。見てみろ」


 俺が指差した先には、まだ溶けかかっている氷山がある。呆然と氷山を見つめるヤツの額に、氷山の光が反射して眩しく輝いた。君はいま、輝いているぞ(光学的に)!!

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