第12話



 でかいアホロートルを担いで街に戻り、邪神食堂(仮)の予定地に着くと、長野ちゃんが思案していた。まだ不機嫌そうな顔してるな。もう勘弁してくれよ。


「ウミサソリごちそうさま。さっぱりからコッテリまでバランス取れてて美味かったよ」

「褒めても何にも出さないよ」

「こいつはアレンが仕留めて来た」

「やるじゃんアレンくん!もう仕留められたんだ!」


 長野ちゃんも褒めて育てるタイプで助かる。何匹も仕留めてそうな長野ちゃんに言われて、アレンもまんざらではなさそうだ。


「その通りです!ご主人様はすごいんです」

「ん?この槍?長刀?は?」

「祭司謹製の新兵器。マリアって呼んであげて」

「よろしくねマリアちゃん」

「はい!」

「これ、どこにおけばいいでしょう」

「じゃあ奥に置いてきて」


 アレンに長野ちゃんが奥の方を指し示す。見るときれいな水が流れている場所がある。助かるな。水場があるから、解体した後すぐ洗えるし、ここなら色々作れそうだ。


「んで、何作ろうか」

「ウミサソリのほうは焼いてみたんだけど、カニの身の網焼きみたいにしたら結構イケたでしょ」

「ああ。アレなら十分店出せるよ。アホロートルが問題だな。天ぷらか唐揚げにする?」

「味付けも問題かな。香辛料ちょっとしかない」


 まずいじゃないか。ウミサソリはまだしも、アホロートルは淡水だし臭みなんとか無くさないと素人にはオススメできなくなるぞ。


「香草ならあるぞ」

「おお、そうか!ってマギエムじゃないか」


 珍しく服を着ているイケメン、お前はちゃんとしてたらイケメンなんだからそうしてろよ。


「ホント?それなら香草焼きとか揚げ物でもイケそう」

「イソノの料理も悪くはないとはいえ、やはり女子の手料理は男として惹かれるものがあるな」

「それには同意せざるを得ません」

「……その料理の材料は邪神なのだが、いいのかお前ら」


 アレンもマギエムもおっさんのようなことをいうが、材料は別にいいに決まってるだろ邪神かいさんぶつなんだから。小さいことに文句いうな包丁め。


 鼻に嗅ぎ覚えのある匂いを感じる。……何故だ。何故、街の中で磯の匂いが漂ってくる?包丁が震える。


「そんなハズがない!どこだ!」

「近いぞ!!」


 包丁が叫ぶ。長野ちゃんもマギエムもアレンも、キョロキョロと周囲を見回している。邪神らしい姿は見当たらない。匂いの源はどこだ?


「信奉者っ!いつの間に入ったの!」


 長野ちゃんがピナーカを突きたてようとする。黄色いローブのような服を着た男が、そこに立っている。


『信奉者とは失礼ではないか』

「じ、じゃあいったいなんなのよ!」


 長野ちゃんの声が震えている。威圧感を黄色のローブの男から感じる。だが、この声は…


「マギエム、見てみろよ。邪神ですらちゃんと着てるだろうが!服を!!」

「私は今日はちゃんと着てるだろ」

「そういう問題ではない!!」

『おい、ちょっと聞け』


 黄色いローブの男にツッコまれた。いや、分かってんだよ包丁。


「黄の王自らご出陣か」

『その名で呼ばれるのは久しぶりだな。祭司は元気か?』

「元気元気。コレ作って貰ったしな」


 マリアを指差しながら半笑いでいう。


「んで、何しに来たの?1人で街落としに来た?……できそうな気はするが、対邪神インターフェイス三本相手に無傷で帰れるかな?」

『……確かに、無傷というわけにはいかなそうだ』


 大したプレッシャーだ。大淫婦の娘なんぞはるかに上回る力じゃあないか?アレンに至っては立ったまま気絶してるし。長野ちゃんですら冷や汗がすごいし顔面蒼白である。落ち着くためには……包丁を構えながらも、ウミサソリの串を取る。


 触手が、俺の手からウミサソリ串を取り上げ、落とした。


「てめぇ……」

『お話の最中に何か食べるのは頂けないのではないか』

「いやー、フランクな雰囲気で行こうぜ。何か食べるか?人間以外」

『あいにく、人間以外は食べないものでな』


 くっそ余裕だな、大物ぶりやがって。おいコラ包丁、少しはなんか言えよ。


「ところでその服だが、暑くないか?」


 いつの間にか、残念イケメンが服を脱いでいた。脱ぐなよ。


『なんで脱いでる』

「いや俺に聞かれてもわからんけど」


 黄の王が呆れているような気がする。気持ちはよくわかる。俺も呆れてモノが言えない。


「せっかくだから、胸襟を開いて話し合おうではないか」

「胸襟を開くってそういう意味ではないぞ」


 今更ツッコみかよ包丁。もっと早くにツッコんでくれ。


『ってそこのおまえ何食べてる!!』

ちょっと腹が減ってるんだひょっとはなはへっへふんは、喰わせてくれよ」


 どさくさに紛れてウミサソリ串を口にした。よし、やっぱり一口食べると落ち着くな。黄の王がイライラしはじめているのがわかる。


でもやっぱりバッタのがいいなぁへほやっはひはっはのはひいなぁ

『そっちの女も食べてるんじゃない!失礼だろうが!』


 長野ちゃんも食べはじめて、黄の王の怒りがこちらにも伝わってくる。意外にこいつイレギュラーに弱そうだな。


『……興が削がれたな。出直すことにする』

「ん?帰るの。気をつけてな」

「何をしに来たのだ、黄の王」


 黄の王、後ろを向いたままローブの中から触手を出して手のように振った。


『アクセス、だけ可能だったらここを落とす必要すらなかったのだがな』

「アクセス?」

『おまけに不快な匂いが漂っていて食欲も落ちるし』

「それはすまんかったな。だが、核攻撃で人類滅ぼそうってヤツにそこまで配慮できなくってな」


 黄の王、ジャンプすると同時に、空高く舞い上がった。すごい速さである。本気で来られると結構厳しいな。前の飛びイカ並みの速さだ。


 ……あいつも俺と同じようなことをしに来たのか?やれやれ、似た者同士ってヤツか。種族は違うが、同族嫌悪ってのを感じる。

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