第11話



 新兵器を試してみたいんだが、残念イケメン(なんとか服は着せた)も街に戻るというので、ついでに街方面に向かいつつ試すか。しかしこいつどうやってここまで無事に来たんだ?邪神に嫌われる汁か匂いでも出してんのか?絞るぞ。


「マギエムは先に戻ってろよ、アレン鍛えて武器調整しないといけないからな」

「うむ。ところで、何か持っていくものはないか?」

『ならばこれを渡そう。こちらと通信できるモノを作ってみた』


 もうちょっと早く作ってくれると色々助かったんだがな。


「これは凄いな。できるなら複数もらえないモノか」

『悪いが材料がない。そちらからアレを渡せてもらえれば作ることはできると思うが』

「アレはそうそう渡せないだろう。とはいえ我々が持っててもタダの石ころなのだがな。父もわかってるとは思うが」


 アレってなんだよ、気になるじゃないか。根本問題として、包丁とかの素材ってなんなのかは気にはなるんだが。材料物性の専門家とかなら見ればわかるのだろうか?


 ひとまず通信機を街に送り届けるために、アレンとともに邪神の館を出発することにしよう。


『イソノさん!』

「なんだよ司書ちゃん」

『持って帰ってくれた例の記憶組織、その中に気にかかる単語があったんです』

「どういうことだ?」

『適合者……それから、潜入』

「あー、シンプルかつ効果的な手だな。……もうさ、司書ちゃんたちにそいつら死なない程度につまんで欲しいレベルだなぁ」

「人間のおまえがいうことか?」


 そりゃそうだが、一方で邪神喰いあさって一方で邪神とお話ししてる俺たち的には、邪神か人間より敵か味方かの方が大事な気もする。だいたいお前なんて邪神からしたら不倶戴天の敵だぞ包丁さんよ。


 そろそろ邪神えものを探しに行くとしよう。探知は包丁に任せることにしようか。


「ところでアレン」

「なんでしょうか」

「この武器の名前なんにするんだ」

「うーん、考えていませんでした」

「何か名前つけてもらえると嬉しいです……」


 声が完全に恋する乙女だ。青龍偃月刀だけど。


「うーん……マリア……ってのはどうでしょう」

「マリア?なんでまた」

「女の子っぽいんで」

「はい、ありがとうございます」


 いいんかいそれで。……そういや包丁もそうだが、ピナーカもなんかどうも12使徒の名前っぽいのついていたようだが。若干気にはなるな。んで、マリアか……。


「まぁ考えすぎか」

「アレンはやる気はあるから、ビシバシ鍛えればいいと思うぞ。よろしく頼む」

「は、はい」


 包丁のヤツ、先輩風吹かせやがる。さて、邪神はと。……妙に生臭い匂いを感じる。磯の香りではないが……。包丁も微妙な振動を発している。


「多分邪神、だと思う?んだが」

「なんだよその曖昧な表現は」


 邪神のようなそうでないような、なんてもんがいるのか?いいからさっさと探すぞ。うろうろと探し続けるが、姿が見えない。アレンやマリアにも頼んで探しても影も形もない。とうとう街まで来てしまう。マギエムと別れてからも探し続ける。


「おっかしいなぁ……」

「何か別の生き物なんじゃないですか?」

「そうなんだろうか……気持ち悪いな」

「仕方ない、一旦街に戻るとするか」


 見つからないんじゃ仕方ない。包丁のいうとおりさっさと街に戻ろう、と思った時である。


「な、何ですかこれ!?」


 マリアが悲鳴のような声をあげる。なんだこれ。目がないイモリのような白っぽい巨体が、こちらにノソノソと近寄って来るではないか!


「ア・ホロートルか!」

「アホのロートル?」

「違うっての!もともとはメキシコの水の精霊を意味する両生類だ!しかしデカくて目が小さいとキモいなこいつ!」


 アホロートルは一時期はウーパールーパーなどと呼ばれて、かなり人気だったらしいが、こいつはどうにもグロいな。白くてグロい。


「こ、こっち向いてますよ目がないのに!」

「嗅覚が優れてんだろ。アレン、マリア、任せた」

「うう……イヤだなあ」

「マリア、頼む!」

「は、はい!!」


 道具の使い方がわかってきたなアレンめ。蠢くウーパールーパーを撹乱するように、アレンはヤツに接近したり離れたりしている。分かってきたな。ヤツが近寄り、口を大きく開け捕食しようとした瞬間、アレンが後ろに跳びのき、刃を口の中に突き立てた。


「これで!どうだぁ!」


 のたうつウーパールーパー。お前の敗因はオリジナルの可愛さがないことだ。十分やれそうだな。よし、いいぞ。勝率が小数点第3位くらい上がった。不意に、肩で息をしているアレンの背後の泥が膨らむ。


「油断するな!もう一品あるぞ!」

「いくら喰うからと、邪神を食材みたいにいうのをやめろ!!」


 俺と包丁はアレンを突き飛ばし、飛びかかってきたもう一体のウーパールーパーの首を刎ねた。


「最後まできちんと警戒しろ」

「は、はい、すいません」

「……よくやったな」


 若い奴は基本褒めて育てる、それが俺のポリシーである。どうせ叩くバカはいくらでもいる。


「さて、街にこいつら持ち帰るぞ」

「やっぱり食べるんですか!」

「食べるんだヨォ!」

「この、キモいの食べるんだ……」


 マリアに汚物を見るように言われてしまった。ウーパールーパーも結構イケるようなんだぞ。喰うに決まってるだろ。オオサンショウウオはかなりイケるらしい。だが、天然記念物だからなぁあいつら、死ぬまでに食えるとは思えない。

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