第10話



 ウミサソリの尾の串焼きにかじりつきながら、俺とアレンは邪神の館、祭司に武器を貰いに行く。イケるなウミサソリ。長野ちゃんには感謝しかない。不満そうな顔で


『行くときテキトーに食べて』


 と渡されたのだが、何だろう、いろいろと味は付けしてて美味い。バリエーションも味噌、塩だれ、塩胡椒、柑橘系などと複数あって飽きがこない。この前のカブトガニも、味付け次第では美味く喰えたんじゃねぇか?


 邪神そざいの味はもちろん大切だ。だが、それぞれの邪神そざいの魅力を引き出すには、それにあった味付け、調理法が必要なのではないか。


「俺は間違っていたのかもしれないな。邪神しょくざいの食べ方が雑だったかもしれない」

「この上さらに喰おうってのかお前は」

「さすがに邪神に同情したくなってきました」


 今更何を言ってるんだお前ら。人間嵐ヒューマノイドストーム一味としてバリバリ邪神倒して喰うんだろうが。一番美味い食べ方の追求を俺は怠っていた。まぁ最初は仕方ない。採って喰うしか無かったからな。しかし俺は、もう少し努力できたのではなかろうか。


「お、珍しく邪神が現れる前に邪神の館につけたぞ」

「おまえは矛盾って言葉を知っているよな?」


 言葉遣いにうるさい包丁だな全く。ぶつくさいう包丁は放置して、祭司に新兵器を貰わないとな。


「来たぞー」

『うむ、来たか。もう調整は済んでいるぞ』

「新しいご主人様はこちらですか?」


 なんだこの青龍偃月刀は。こんな丁寧な喋りのヤツいたか?……あいつ?あのカタコトで暴言吐いてたアレ?なんということでしょう、クソ汚い暴言を吐いていた刃物が匠の手でこれほどまで美しい言葉遣いの青龍偃月刀に。


「俺じゃないな、悪いが」

「おまえだった方が私は良かったんだがな」

「うるさい包丁」

「ずいぶん賑やかなお二人です」


 バカにされてるような気がするな。あとこの青龍偃月刀、女の子っぽい気がする。


「祭司。こいつの思考ベース、ひょっとして司書ちゃん?」

『そうだな。もう少し落ち着けた性格に調整している』

「すごいですね……」


 もうすっかり邪神になれたもんだなアレン。素直に匠の技に感心する少年の表情だ。ちょっと前までは憎しみが目の奥に宿っていたものだが……。


「こちらの方は?」

「アレンです。よろしくお願いします」

「え?……えっと……そ。その……こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします……」


 なんだ?なんだか急にもじもじしだしたぞ青龍偃月刀。


『うむ、概ね成功のようだ』

「祭司、何をやったんだ何を」

『性格の調整を行う際に、新規の遣い手との相性を考慮して調整した』

「待て待て待て、ちょっとおまえやりすぎたんじゃないか!?」

「おまえも突っ込むことがあるんだな」


 そりゃあるわい、何を言いだすかと思えばこの包丁め。つまり青龍偃月刀ちゃん(仮)、アレンに惚れるように調整したんかい。あー、でもそれは強力な戦力になりうるな。テーバイの神聖隊(ゲイ)とか恋人同士の軍団だった故に強かったというし。恋する女の子は絶対無敵ってか?


「なんかよくわからないですが、こちらこそお願いします」

「は!はい!!頑張りましょう!!」


 うーん、これでいいのか?……いや、待てよ、こいつはもともとあのクソコウモリダコ野郎の持ちモノだな。つまりあいつから寝とってやったってことか。こりゃいい。復讐は完了した(アレンの手によって)。


 なんだかスッキリしないのは何故だろう。


『ちょ、ちょっと!もうわかりましたから服着てくださいー!!』

「何をいう。そちらが服を脱げといったのではないか」


 なんだろう。聞いたことがある可愛い声と、聞かなかったことにしたい残念イケメンボイスが聞こえてきた。


「マギエム!とりあえず服を着ろ!!」

「イソノではないか。下は履いているぞ」

「上も着ろ上も」


 こいつといるとこちらが突っ込みを入れたくなる。存在自体が天然ボケってのは中々疲れる。


『イソノさん!助かりましたぁ!なんとかしてくださいよこの変な人をぉ!』

「何をいうかと思えば、ちょっと人体に興味があるからというから見せただけではないか」

『もうお腹いっぱいですよぉ〜!これ以上やると食べますよ頭から!!』

「むう、それは困るな。また食べられるのは勘弁だ」


 またってことはこいつは似たようなことやって喰われたんかい。……邪神が食っても食あたりするなこいつなら。下手すりゃ毒だ。フグかよ。


「んで残念イケメンはなんでここにいるんだ」

「父に頼まれてな。そろそろあの街も危険なのはわかっているな」

「父?おまえの父親って?」

「顔役をやらせてもらっているメルトリウスだ」


 なんてこった、メルトリウスの野郎子育てにも失敗していたとは。


「んで、何を伝えにここに?」

『街は戦場になるから、どうするかだけハッキリしてくれとのことだ。最悪裏切る可能性も考えてはいるのだろう』

「そうか」


 祭司が今更裏切るならそりゃそれで仕方ないことだ。最初はなっから勝ち目が薄いんだからな。しかし、祭司が静観してるだけでも、奴らには相当プレッシャーなはずだ。


「んで、祭司はどうすんだ?」

『出来れば戦争は避けたいんだが、そうもいかんだろうな、最早。私としてはあの街に攻め込むのはリスクが極めて大きいと思うのだが』


 そういえばメルトリウスも、何か街の防衛の秘密兵器があるようなことを言っていたな。なんで祭司は知ってるんだ?


『あの街はかつて、我々と人類が戦い、どちらも壊滅したと言われている』

「壊滅」

『だからあの地に再び人間が集まって住んでいたのは、我々には脅威だ』

「そちらの存在が私たちには脅威なのだが」


 珍しく真面目なことを言うなマギエム。


『服着てないでそんなこと言うあなたが脅威ですぅ!』


 司書ちゃんの言う通りだ。早よ服着ろ。風邪引くぞ。

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