第7話
なんとか戻ってきた邪神温泉で、ヌメヌメしたヌタウナギ野郎を揚げつつ、祭司に生体コンピュータの話をしたのだが、あまり明るい表情はしてくれない。
……なんで表情がわかるんだって?顔の色が明るいときはいい表情で、暗いときは悪い表情なのがだんだんわかってきたからだ。祭司のほうもこっちの表情がわかってきたようだ。表情もコミュニケーションとして大切だと再確認できる。
『……残念だが、そいつが情報処理をする生体組織であっても使えそうにないな』
「バカな。人間でなくても情報が得られればいいんじゃないのか?」
『説明が若干難しいな。決まり切った情報処理をするようなモノから得られるエネルギーと、人間から得られるエネルギーでは桁が違う』
「ちょっと待て。まさか人間の脳が量子的な処理を行っているとかいうのか!?」
『ああ』
くそ、食料問題解決するかと思ったがそうはいかないのか。人間の脳でないと、もしくはかなり人間に近い情報処理するような脳でないといかんとなると一気にハードルが高くなるな。量子コンピュータでないといけないだと?脳は量子コンピュータだった?
カラッと揚がったヌタウナギにかじりつきながらも、俺はしばし考えこむ。あ、これ結構肉肉しいな。魚って感じじゃないなヌタウナギ。肉食ってる感ハンパない。
「それにしてもだ、祭司。連中は何を研究していたんだ?はるか古代に絶滅した生物なんぞ復元してどうするつもりなんだよ」
『うむ。おそらくだが、自分たちに都合のいい家畜を作りたかったのではないか』
「ちょっと待て。家畜というのは……」
「お前みたいな邪神襲うような野生動物は家畜に向かないということだ」
包丁にボロカス言われてるが、実際のところ飼われてやる筋合いなんか全くもってないからな。そういうヤツが人類に多いってんじゃ、確かに人類を家畜にはしにくいことは想像に難くない。
『人間と同じような思考を可能とした、奴らに忠実な家畜を作ろうとしているのだろう』
「理屈は分かったが、そんなもん上手くいくのか?」
『上手くいっていなかったらさすがに核攻撃だったか、それで人類絶滅など考えたりはしないのではないか?』
最悪じゃねぇか。思わずヌタウナギ食べる顎に力が入る。ヌタウナギ、コチュジャンで味付けするのが美味いというが、それないからソースで味付けしてたんだがこれはこれで悪くない。
『私たちと人類はそれぞれ、利害は一致しないことも確かにあります。でも絶滅させるとか殺しあうとか……』
司書ちゃんもちょっと不安そうだ。一方的な殺戮になるとは到底思えない。どちらが勝利しても控えめに言って地獄だ。
「殺しあうメリットも全くないよな。そんな家畜が出来たんだったら人類なんか無視して自活すりゃいいよな」
『……理解できません。私たちと近しい存在なのに、イソノさんたちより遠い存在にすら感じます』
司書ちゃんにすらそこまで言われてる黄色の王とかそのへん、人間になんかされたんだろうか?……いや待てよ。
「そういやさ、黄色の王とかは日本を狙ったことって過去にあるのか?」
『あいつらが逃げ帰った地が日本だぞ』
「……なんのこたないな、私怨かよ。怨むぞ
有史稀にみる高齢中二病はさておき、奴らが人類怨む理由が存外シンプルで乾いた笑いしか起きない。
「どうせなら連中喰いつくしといてくれ我らがご先祖様たち」
「それだと祭司たちも喰い尽くされてたぞ」
「それは困るな」
『しかしだ、奴らの期待するような人間に類似した思考の生物とやら、どこにどうやって作っているのだ?そもそもどうやって持っていく気だ?』
祭司のいうとおり、こちらから転移するのにもエネルギー源はいるわけで。無論エネルギー源はあるんだよな。火山の街にはかなりの数の人間がいたわけで。
「火山の街の人間喰いつくして転移でもするのだろうか?」
「十分考えられるな。侵攻してこないのはやつらがまだ準備中なのだろうが」
正直なところ包丁のいう通りならまだありがたいのだが、別の理由だとすると恐ろしい。
『火山の方に戻るのか?』
「そのつもりだが」
『なら前にいた少年に言ってくれないか?今度来てくれたら渡したいものがあると』
「アレンにか。いいぞ。アレか?」
『そうだ。こちらの人間で適性があるというのは不思議なのだ』
アレンが戦力になるってんならちょっと助かる。いまは猫の手ですらありがたい。祭司に渡したクソタコ製の刃物、どう魔改造されるのか期待だ。
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