第5話
オパビニアの口吻を咥えながら、包丁片手に帰路を進む。絶滅種とかそういうレベルではない、なんでこんなところにいるのか全くわからない代物だ。
あくまで可能性としてはだが、研究の成果として絶滅種を復元させたのだろうか。それにしたって何故なのか。目的がわからないのが気味が悪い。おまけに技術力がムダに高いのも不安をかきたてる。
「絶滅種を復元した?しかし……何のためにだ?」
「わかるわけがないだろ」
「
この実験場、謎が多すぎる。生物を使った情報処理技術、絶滅種の復元……
「他にも何か復元とかしているんじゃないか?アノマロカリスとか」
「何だそいつは」
「古代地球の海の王者だ。3000万年くらい地球の海を支配してた」
「3000万年」
包丁が半ば呆れているが、実際のところアノマロカリスはかつて考えられていた以上に強大な海の王者だったという話もある。
「王者というからにはだ」
「……わかってはいるが一応聞こう」
「当然味の方も美味いに違いなかろう」
「……それしかないのかお前には」
当然それについて考えを巡らせるのは基本だろうが。多くの海の幸をその身に取り込んでいるんだぞ。美味いに決まってる。
「仮に美味いものだと連中がわかっていたとする」
「おう」
急に何を言い出すのか包丁は。
「お前に喰われるリスクを考えたら作らないだろうが。仮に何かの目的があるなら真っ先に逃がすな」
「お、おい……それじゃ……」
「そいつが美味いならまず喰えないのではないか」
「何だよそりゃ!畜生!」
出てきたならそいつはおそらく不味い、出て来なければ美味いだと?追いかけて喰うぞアノマロカリスめ。
砂地を進んで行くうちに、磯の匂いが強くなってきた。しかし、この香りは……どちらだ?オパビニアのそれに似た匂いを感じる。
「来るぞ!」
包丁の叫び声とともに、地面がぬかるんでゆく。そして、ぬかるみの中から小さな丘と言える規模の存在が現れた。
「そうか。そうきたか」
「何だこいつは」
「オパビニアほどではないが、古代からその姿を変えない存在だ!カブトガニ!」
カブトガニというのは、カニの名は冠しているがどちらかと言えば蜘蛛に近縁である。三葉虫とも近縁であるといえる。そういう意味では匂いが近く感じたのも無理はないことなのかもしれない。
突進して来るカブトガニを躱す。次の瞬間、ヤツは急に方向転換をする。砂地に適応したヤツだからできることか。こんなに狂暴だったかカブトガニ?
「どうやら俺のことをゴカイか何かと同様に思ってるらしいな」
「こんなヤツ喰ったら腹壊すぞ」
「言ってろ」
のしかかって多数のハサミ付きの肢で、俺を喰いちぎるつもりか。そんなに喰いたければなぁ!
「お前には、包丁から喰わせてやるよ!」
包丁をヤツの口に突き刺す。カブトガニの口だが、その身の中心部にあるのだ。蠢くカブトガニだが、やがてその青い血を流しながら絶命した。心臓も近くにあるのだ。自分の心臓の性能が高すぎて、その血を身体から流してしまったのか。
カブトガニに限らないのだが、多くの甲殻類はヘモグロビンの代わりにヘモシアニンという銅を中心として酸素交換を行う色素を有するため、血が青い。
「さて、こいつも食べるとするか」
「やっぱり食べるのか」
「当たり前だろ」
カブトガニなのだが、日本ではほとんど食べることができない。身は比較的にカニ系の味ではあるが、水っぽくそこまで美味くはない。美味くはないが、倒した以上責任を持って頂こう。
それが、俺の矜持だ。
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