第4話
ここがヤツらの拠点だとして、いま俺の胃袋に収まりつつあるコウモリダコ以外にも何かがいるのかは気になるな。
「包丁、ここには他の邪神の気配はあるか?」
「今はなさそうだ。ここはさっきのヤツの実験場だったようだ」
実験か。効率よく人間を「駆除」する手法の開発でもしていたのだろうか?そのための武器は残念なことに俺の手の中ではあるが。
しかし先ほどの武具のようなものだけでは、俺たちを駆除するのは難しいだろう。だとすると本命はなんだ?核を使わせる?精神を操作することができるというのなら、確かに使わせることも可能なのだろう。仮に特定の相手を操作するとして、どのくらいの距離で操作可能なのだろうか。
「あのクソタコ野郎は、一体ここで何を研究してたんだよ」
「さぁな」
包丁に聞いてもわからないのは仕方ないか。祭司辺りに聞く方がいいんだろうか?洞窟内をくまなくチェックするが、めぼしいものは見当たらない。
「ひとつ気になるな」
「何がだ」
「ヤツはここで研究をしていたということはだ、ここで暮らしていたのだろうな。つまり、食料となる人間がいるのではないか?」
「確かにな」
「しかし、人間はおろか、生き物すら見当たらないぞ。ヤツは何を食っていた?」
実験場だとするなら、ここには何もなさすぎるのだ。いや、人間の死骸とか転がっててもイヤだが。
「こいつは、もう実用に耐えるってことか?」
「その、実験か!ヤツも実験材料ってことになるのか」
俺は藻のような不定形生物を摘まみ上げる。こいつが食料とは。
人間も似たような実験はやるからな。バイオスフェアなどは人間が閉鎖空間で生存できるか、将来のスペースコロニーの開発のデータとして考えられていたわけだ。
「だとすると、あまり時間的な余裕はないな」
「そうなるのか」
「とはいえ、逆にコレは祭司におしえてやればだ、彼らの食料問題解決に繋がる。それは俺らと祭司たちの共存がより現実的になるってことだ」
「……そうなるといいがな」
ぶっちゃけた話、邪神だろうがなんだろうが友好的な知的生命体と共存って夢が広がるだろうが。宇宙人……いや超次元の存在か。
友好的でない方はしゃあないから捕食するしかないとは思うが。向こうだって絶滅させる気だしなぁ…
「祭司たちとこのクソ野郎たちとは、そりゃ見た目はおんなじようなもんだが、中身は随分と違う気がするんだがな」
「……そろそろ戻るか?」
「なんだ?気分でも悪いのか?」
「そんな殊勝なことなど言うのも気持ち悪いのだが」
……なんでお前はそんなんなんだよ、全く。
ひとまず威力偵察には意味があったってことだと思いたいが、不完全燃焼な部分がある。
何かははっきりしないが、ひっかかる。
洞窟から出ようとした時、強烈な、その匂いを感じた。磯の匂いがはっきりと感じられる。ほとんど同時に、包丁が激しく振動する。
これまでに感じたものとは何かが違う。何かがはっきりわからないのが、不安をかきたてる。
「……来ているぞ!」
「わかってる。しかしなんだ?この違和感は」
俺も包丁も、何かがおかしいと感じている。だが、それが何かがはっきりしない。その時、奇怪な姿が現れた。
「……そ、そんなバカな!!あ、ありえないだろ!」
「何がだ?こいつもただの邪神だろうが」
包丁は分かっていない。俺がこの姿に強烈な違和感を覚えた理由も。
「……オパビニア」
「なんだそいつは」
「地球では、はるか昔、五億年以上前に絶滅した甲殻類だ。もっとも、こんな巨体でもないがな」
そう言うこともあるのか?こちらではたまたま生き残りやすい環境だったのでバージェスモンスターが生き残った。……そんなはずはない。もしそうだったらとっくに遭遇しているはずだ。
……俺は額に拳を叩き込んだ。
「……ってぇ!!」
「何やってんだお前は、バカか!」
包丁に罵声を浴びせられる。ああそうだ、確かにバカだ。そんなことうだうだ考えるよりやるべきことがあるだろうが!
「オパビニアってのはなぁ!バージェスモンスターの中ではな!」
俺はオパビニアの口吻を叩き斬る。胴体から出ているヒレを斬り続け、そしておもむろに、両断した。
「……捕食される側の生き物だ」
「なんだそれは」
「つまり、いつも通りってこった。いただきます」
オパビニアも甲殻類の一種であり、捕食されていたことが化石でよくわかっている。つまり喰われる側だったわけだ。
オパビニアの刺身もエビ系ではあるな。アミエビとかその系統の味である。嫌いじゃないがな。酒が欲しい系の味である。
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