第3話



 武器を振り回してくるコウモリダコの野郎。確かに武具の性能はこちらと同レベルなのかもしれない。オマケにそれが二本あるという。


 だが、何故だろう。


「それで、俺をブチ殺したいのか?」


 包丁とヤツの武器でつばぜり合いをしている状況でも、俺は不思議と不安と恐怖が無くなっていくことに気がついた。


『アダリマエダ、ナニガイイダイ』

「なるほど武器の性能は悪くない。そう、悪くない」

『ダガラナンダドイッデイル!!』

「ならはっきりさせてもらおうか」


 そういうと同時に、俺はヤツの武器の片一方を斬り飛ばした。金属音が地面に響く。


『ナ、ナゼダ、ナゼ……』

「刃物の使い方をどれだけ知ってるんだお前?」

『ドウイウゴドダ!?』

「お前は武器を作れるのかもしれないが、武器の使い方を習熟していないことは、刃物の使い方でよーくわかった」


 こいつは弱いのだ。確かに武器は脅威ではある。だが、それは強い相手ならのことだ。こちらも武器を持っていて相手も持っている状況では、その武器の習熟度こそが勝敗を分ける。


『ニンゲンゴドギガ!ギイダブヴナゴドヲオオオオォォ!』

「……武器をあっさりと破壊されているのに、まだ力の差を理解できていないのかこいつは」


 包丁にすら呆れられている。こんな馬鹿野郎に人生曲げられたのには腹がたつな。さっさとトドメを刺してやるからちょっと待ってろ。


「始末をつけてやる。さっさと刺身になれ」

『バ、バガニ!バガニズルナニンゲン!!』

「終わりだ」


 俺は包丁でヤツの持つもう一本の刃も吹き飛ばそうとした。……な、なんだ!?左肩に激痛が走る。


「なん……だと!?全く気がつかなかったぞ!?」


 包丁が驚くのもムリはない。俺の肩に突き刺さったそいつは邪神の端末のはずなのに、包丁が感知できなかったからだ。


「……くそ!イッテぇな!……ワラスボだと?」

『ワダジヲナメデイルヨウダガ』


 不敵な笑みをヤツが浮かべる様に思えた。こいつムカつくわー。でもその一方で油断もあったかもしれない。しかし何故気がつかなかった?


 肩に食い込むワラスボのようなヤツだが、よく見ると干物のようである。そういうことか。有明海かここはとは言いたくなったが。


「死体を操作しやがったのかテメェは」

『ゴノヨウナゲイドウモアルワゲダ』

「なるほどな」


 肩に食い込んでるワラスボを無理やり外した。ちょっとだけ血が出てるな。こんなもんつばでも付けてりゃ治る。


 早速ワラスボを齧る。干物になったワラスボは生よりも美味いと言われている。


『ナ、ナニヲヤッデイル!?』

海はな俺たち日本人ふひはなほへはちひほんひん……いや人間はおろか全ての生物を育んできたんだ。その豊かな栄養で」

「言ってることは正しいのかもしれないが、やってることはやっぱりおかしい」


 食べながら喋ると滑舌が悪くなるな。それより食べながら話すのはマナー違反だな。司書ちゃんあたりに文句言われそうだ。


つまりなふはひは、こうやって海からの邪神えいようを摂取することで、俺たちは!」


 今度こそ、もう一本の刃を持っていたヤツの触腕を斬り捨てた。


「強くなってきたんだ。貴様ごときに負けない程にな!」

「いや別に喰っただけで強くなってるわけではないのではないか?邪神との戦闘経験とかだな」


 せっかく人が暑く、じゃないや熱く語ってる時に水をさすんじゃないよ包丁さんよぉ!


 何かを感じ、素早く回避する。ワラスボ弾はまだあったのか。数発のワラスボが吹き飛んできたが、見もせずコウモリダコに突っこみつつかわす。


 包丁をヤツの胴体に突き立て、そのまま刃を上に向けヤツの胴体を引き裂く


『ニンゲンノガワヲガブッダバゲモノ……ゴンナヤヅラノズムジゴグニ……ワレラノ……イギルドゴロバ……』

「うるせぇよテメェこそ人を家庭内害虫みたいに拉致しやがって!」


 意外にこいつしぶといな。まだ生きてやがる。トドメをささないとしっかり。ん、待てよ?


「死ぬ前に一つだけ教えろ」

『ナニヲイマザラ……』

「お前、俺の女に間男あてがって前後運動させやがってたな!」

『アア、ゾンナゴドガ。アイヅラ、イッジョニバダガデイダガラ、ヅガイダドオモ……』

「っておい待てやてぇめぇ!!それってぇ!!」


 それだけ言うとヤツは力尽き生き絶えた。……世の中には、聞かなければよかったことはある。確実にある。涙を流しながら、俺はコウモリダコを齧るしかなかった。……あんまり美味くねぇよ、硬いし油多いし……。


 黙々と血涙を流しつつタコを齧る俺だったが、ふとあるものに目がいった。ヤツが落とした刃物である。片方は完全に壊してしまったがもう一本は無傷だ。


「そういえば包丁、これ、使えるかな」

「そのままでは使えないだろう。一度、祭司にでも渡すといいかも知れない。あいつなら何とかできるのでは」


 なるほど。二刀流か……ロマンではあるんだけど、現実的ではないんだよ。例えば宮本武蔵も、あいつむっちゃ身長デカい(183センチ位あった)から振り回せてたんだよな二本。そこまで大きくない俺にはキビしい。


「コ、コンナヤツニ……」


 刃物がなんか言っているが、一切無視だ。祭司の手で改造されてしまえばいいと思う。

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