第18話



 邪神温泉(邪神と混浴はない)と思っていました、昨日までは。だが。


『ふぁー。海水風呂っていうのはなかなかきもちいいですねぇー』


 などと可愛い声でのたまうのは、残念ながらイカの司書ちゃんである。冷水ならいいんだな。それにしても君なんで一緒に入って来たんだよ。


「いや、性別が別とはいえ種も違うし性的なものは一切感じないしいいのですが……なぜ一緒に?」


 アフィラムのいうことももっともだ。1人で入ってもいいじゃないか。


『んー。人間の文化っていうのにもっと私たちは興味を持つべきかなーと思いまして』


 一理ある。祭司とかひどかったからな。もう少しあいつが人間の文化に興味あったら、もうちょっと終焉の地はマシだったかもしれん。


「だからって混浴かよ。それってちょっとどうなのさ司書ちゃん」

『別にそちらも私たちに性的なもの求めたりしないかなぁー、と思うんですけど』

「そりゃまぁそうだけどさ」

『それとも私に性的欲求抱いたりされるんですか?』

「人間の中にはそういう奴もいるかもしれないけど、正直俺たちは違いますよねイソノさん」

「当たり前だろが」


 アレンの言わんとするところも分からなくもない。例えば人間の女性器とエイのそれが比較的に似ている、なので漁師が利用するという都市伝説があったな。実際にはアカエイなどは尾に毒針もあり、まず考えられない。


 またイカの胴体を処理具がわりに使うなどという都市伝説も、これも色々と寄生虫のリスクなどを考慮すると到底オススメできない。大体食材に対する冒涜じゃねぇか。


 そもそも人間というのは外見的刺激により性的欲求が高まるというものである。イカの司書ちゃんじゃちょっとなぁ。


「正直なところ性的魅力を司書ちゃんに感じたら、人間としてはヤバいな」

「まぁ裸の人間女性に擬態でもされたら別ですけどねハハハ」


 おいこらアフィラムのバカ、フラグを立てるんじゃない!


『裸の人間女性ですか……こんな感じですか?』


 いうが早いか、司書ちゃんが身体を変化させはじめた!おいおいおいおいコラ待てちょっと!


『どうですか?』


 どうですかじゃないよ司書ちゃんそれ完全にアウトだからな!人間の形態になった司書ちゃん、胸とか結構大きくなかなかいいスタイルをしている。前に大淫婦の娘が擬態してたのは見た目の形や色がかなり人間と離れてたが、司書ちゃんのは結構擬態レベル高い。


 目とかくっきりぱっちりで顔も可愛いし、普通にモテる顔をチョイスしている。どこで知ったんだよそんな顔。髪はショートにしたようだ。……目とか身体の色、乳首の辺りまでご丁寧に体表の色彩で再現したのか!そんなもん身体が反応するに決まってるだろが!


 果たして男三人、風呂の中で顔を真っ赤にしてしまった。ムクムクしたのは擬態がうまいからだ。腹立つなぁ下半身。


『え。ちょっと、どうしたんですか?』

「あのな司書ちゃん、人間、特に男って外見的刺激で生殖器が反応しちゃうもんなの」

『でも私人間でもなんでもないんですよ!おかしくないですか?』

「絵でも写真でも反応すんだよ!仕方ないだろ!」


 君は胸とかプルプルさせながら言わない。もう少し恥じらいをだねと言いかけて、そもそも彼女の方は人間に性的感覚とか感じないことに気がついた。


『それにしても服とか脱ぐだけでそんなに反応したら、大変じゃないですか』

「実際大変だぞ人間。性関連のトラブル多いし。覗きとかで捕まる奴もゴロゴロいる」

『見ただけで?見たい?よくわかりませんね人間って』

「わかんないのはそっちもだよ。性的欲求とか起きたりしないの?」

『そ、そんなこと聞かないでくださいよ!普段はともかく発情期とか色々大変なのに!』


 そういうことか。感覚が色々と違うんだな。


「人間は発情期ない代わりに常時繁殖可能だからなぁ」

『え、それって環境次第では人口増加とかまずくないですか?』

「はっきり言おう。極めてマズいことが起こっている。人口爆発で地球がヤバい」

『いつでも繁殖期って怖いですね人間』

「君はそろそろ擬態といてくれ。風呂から上がれない」

『あはは』


 あははじゃねぇよ、触腕の代わりのブツが差し込まれても知らんぞ。妊娠はしないが受精はする可能性はある。


 実はウニなどに人間の精子をかけた場合でも、受精自体は起きる。もちろん発生はしないしウニ人間は産まれない。よかった。そんなもん産まれたら地獄だ。


『あははちょっとくすぐったいですよー、お触りはダメですー……ってあれ?みなさん?』

「え?司書ちゃん何言ってるの。みんな風呂の中だぞ?」

『ってだ、誰が触ってるんですかぁ!イヤあぁ!!』


 絶叫する司書ちゃん。後ろに何かがいやがる。全裸の女の子に何かが襲いかかる絵にしか見えない。


「……展開は読めていたが……祭司は海底洞窟に対処してなかったのか!」

「全くだ!何度目だ司書ちゃん!」


 俺は包丁片手に司書ちゃんの後ろに飛び込む。見ると大きなエイが司書ちゃんの身体に尻尾をまきつけようとしている。毒針を刺そうとしているのか?急いで尻尾ごと毒針も両断し、更に突き刺してトドメをさす。


『ふーっ……助かりましたー』

「いいから早く擬態といてくれ!目の毒だ!」

『ちょ、ちょっと待ってください。んんん』


 何か妙に声が色っぽいんだけど、誤解されるようなことはないよな?誰も女の子とかいないし。


「みんな大丈夫!?」


 その声とともに、聞いたことがある声の女の子が飛び込んで来た!


「げぇっ!長野ちゃん!!なんで!」

「ちょっと何やってんの磯野さん!」


 あ、こら誤解うけるわ。上半身全裸女性の司書ちゃんの背後にはエイ。トドメ刺したエイの背後に俺。新手のプレイに見えかねない。


 と、言っている間に司書ちゃんがイカに戻っていく。沈んで行くエイ。そそり立つアレ。


「え?え?何が起こってどうなってるの?」

「どうもこうもないよ!いいから早く出てってくれぇ!」


 俺の絶叫が、露天風呂に響いた。

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