第17話
核兵器による特定の人間虐殺計画という、貴様ら本当に邪神か(邪神だけど)と言わざるを得ない計画に恐怖と怒りを感じている。核兵器を使われるなどと言う事態は絶対に避けないといかん。そのためにもまずは腹を満たしていい知恵を出さないと。
そう思ってセミエビを味噌汁にしているのだが、包丁がグダグダ文句を言っている。
「何を悠長にスープ作っているんだ」
「味噌汁だ。絶対美味いから」
「それどころではないだろうが!大量の人類を虐殺すると言うんだぞ!」
そんなことは分かっているんだよ。分かっているが、まずはおまえが落ち着け包丁。
アフィラムやアレンはイマイチ状況が理解できないのか、二人で何やら話し合っている。
司書ちゃんと祭司も、人間には聞き取れない言葉で会話している。俺は蚊帳の外だ。
惨殺したウナギをよく洗い、丁寧に骨切りする。あ、そうだ蒸さないといかんぞ。オオウナギ系邪神だから味が悪いかもしれんな。脂をしっかり落とせばいい味になるだろうか。
「祭司、炭と串ってあるか?」
『あるぞ。それを焼くのか』
「焼く」
つくづく几帳面でありがたい。蒸すのはガスでもいいが、仕上げは炭にしたい。
「蒸した上に焼くんですか……そこまでして食べたいんですか?」
「食べたいに決まってるだろ。俺たちはこいつの眷属を絶滅させそうにしてるくらい食ってるんだぞ」
「威張るようなことではないな」
アレンたちからすると日本人というのは異常なのかもしれないな。しかし血中に毒すら持つウナギは、こうまでして食べたい存在なのだ。そうでなければ絶滅の危機には瀕してない。相変わらず口が悪い包丁ではあるが、この件に関しては同意である。
アフィラムたちに炭とバーベキュー台を持ってきてもらう。近くの車の中に転がってやがった。間違いなくこの付近一帯をアメリカから転移させやがったようである。まぁせいぜい有効活用(ウナギのかば焼き生産)に利用させてもらおう。
「なんだかいい匂いがしてきますね」
「そうだろ。年中喰うんだが、特に夏には日本人はウナギをやたら喰うんだ、実は旬は冬だが」
「邪神食べるってわけではないですよね」
『邪神でなくてもあんなウネウネよく食べられますね』
とうとうイカの司書ちゃんにまで日本人はバケモノ扱いである。残念ながら日本人以外も食うよウナギは。しかしあのイギリスの名状しがたきゼリーだけは納得いかん。ウナギに対する冒涜だろ。
秘伝でないタレを作る。即席なんで味の方はそれなりだろう。しかしこれでも無いよりははるかにうまそうではある。
「ウナギのかば焼きもできた。味噌汁もある。……コメが喰いたい」
『残念だがコメというのは無さそうだなこっちには』
同時並行で祭司に麦を持ってきてもらって麦飯を炊き始めている。ウナギに麦飯かよ。泣きたくなる。ここまで材料が揃ってるのになんで無いんだよコメが。まぁサンショウも無いのだが。
「祭司たちにも何か食べさせたいけどなぁ」
『一番必要なものはあまり食べられないからな。信奉者をしばしば啜ってはいるが』
「足りないんじゃないか」
『足りないというほどではなかったが、さすがに司書までとなると厳しいかもしれない』
祭司たちの食料問題も解決はしたいが、人間ホイホイ餌にはしたくないなさすがに。
「情報が必要となると、人間以外だとあとは…」
『それは一番やりたくないことだ。最悪可能性は考えている。人類を滅ぼしたとして、最終的に共喰いしかないということが、なぜあいつらにはわからないのか』
「まさかとは思うが、それすら連中の狙いなんじゃないか?」
『バカな。わざわざ滅びの道を何故選ぶ』
「そこまではわからないが、そう考えるとスッキリする。スッキリするが理由はわからない。司書ちゃんどう思う?」
突拍子もない話に、司書ちゃんは困惑の表情を浮かべているような気がする。
『わかりません……でも、わざわざ滅ぼうとすると考えるより、不要な存在を排除してその後に必要な存在を繁殖させると考える方が自然ではないでしょうか』
「要は焼畑農業か。だとすると、黄の王たちは不要な人間と邪神を排除して、残りの人間を家畜化でもして入植活動するってことか?」
『はい。そう考えるとシンプルではないでしょうか。さらにいうなら、人間ではない別の家畜を用意している可能性もあります』
「腹立つなー。すげー腹立つなー」
シンプルだがその意見には同意だ。アレン。
「腹立ったから腹減りましたよ。食べましょうその邪神」
「腹が膨れたらムカつきも減るだろう」
「そんな理由で食べられる邪神って、なんなんでしょう」
「喰われる側と喰う側が、逆転しているだけだ」
包丁は最近まともに突っ込む気が無くなってないか。文句しか言わない。
ウナギ邪神、脂をかなり落としたからかそれなりにはイケる味である。セミエビの方は濃厚な味の味噌汁なので、あっさり目の麦飯丼でもそれなりには合う。しかしそれなりでしかないな。苦労した割には美味くない……。
「これ、絶滅させるほど美味いんですか?」
「ウナギの方はな。この邪神くらいの味だったら絶滅寸前まではさせられることもなかっただろう」
アフィラムやアレンが微妙な顔をしながらウナギ邪神丼を食べている。セミエビの方は評判良かったのでひとまずよかった。
「なんだか満足いかんな」
「腹は膨れたんですけどね」
「風呂でも行きますか」
アフィラムはすっかり温泉にハマったようである。邪神の味はまぁ仕方ない。せっかくだから風呂でも行っとくか。コーヒー牛乳とか欲しくなるな。
『お風呂ってどんなんですか?』
「司書ちゃんはダメだよー。お湯だぞお湯」
『あ、でも水風呂ってあるんですよね?祭司さんに聞いたんですけど』
「え、でも司書ちゃん女の子だろ、一緒に入るのちょっと……」
『別に人間と入っても問題ないですよね』
「え、まぁいいですけど……イソノさん」
なんだろう、凄く不吉な予感がしてきたぞ、色々と。
「おい、包丁、とりあえず風呂でも付き合え」
「……仕方ないな」
こういう時の俺たちの勘は、残念だが今のところ外れたことがない……。
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