第15話



 セミエビも解体したし、海藻も採れたのでひとまず邪神温泉に戻ろうかと思う。そうだ、このヤドカリイカちゃん(仮)はどうしよう。ついてきてくれるかな。


「ところで君のことはなんて呼べばいいのかな」

『そうですねー。※ー※・※※※って聞き取れませんよね。うーんと、司書って呼んでください』

「司書ちゃんね。よろしく。んで、司書ちゃんは祭司に伝えないといけないことあるって言ってたけど」

『そうなんですよ。祭司さんとはお知り合いですか?』


 司書ちゃん(見た目イカだけど)って声可愛いな。どうやって声が来てるのかよくわからないけど。ひょっとして、直接脳内に送り込んでるのか?まあ危害は多分なかろう。


「お知り合いもなにも、昨日祭司と酒飲んでた」

『の、飲んでた!?……祭司さんなに考えてんですか!』


 司書ちゃんがちょっとキレぎみである。そりゃま気持ちは分からなくはない。かなり危険な目に遭ってたときに、人間と酒飲んでたって邪神としてどうなんだよと。もっとも酒勧めたのは俺である。


「酒はこいつが勧めた」

「おいこらバラすな包丁」

『全くもう!祭司さんにお酒飲まさないでください!!』


 司書ちゃんって真面目系なんだろうか。学級委員長タイプな気がして来た。邪神に学級委員長がいるかどうかは知らないが。


「まぁそういうなよ。祭司のおかげで風呂にも入れて助かっているんだ」

『風呂ってなんですか?』

「お湯で身体をきれいにするんだ。あと身体をお湯で温める。人間って体温調節に難があるからな。風呂で血行良くするのは身体にいいし」

『やっぱり人間って変わってますねー』


 しみじみ司書ちゃんに言われると、確かに人間は変わった生物だとは思う。ほぼ毛はないし、二足歩行はするし言語や手、文字、道具の使用。もっとも個々の要素は人間独自でもないんだよな。


「そういうわけで、司書ちゃんも一緒に行くかい?」

『はい!お願いします!』


 祭司よ、後で司書ちゃんに文句言われるかもしれないが諦めてくれ。勧めたとはいえ飲んだの君だから。


 道を戻って行くとヤシの木を見つけた。なってるじゃないかヤシの実。当然のように登ろうとすると、他二人と一柱は野生動物を観察するような目でこちらを見てくる。


「何してるんですか!」

「それな、こっちのセリフだぞ」

「ヤシの実取るつもりですか?」

「当たり前だろうが」

「野生にいきすぎてる…」


 アフィラムがしみじみと言いやがるが、ヤシの実があったら普通採るだろうが。


 セミエビはアレンとアフィラムに渡してらヤシの実2つと海藻を持って帰ろうとしたとき、磯の……いや、微妙に違う匂いがした。


「お前ら!来るぞ!」

「だからお前はなんで私より先に感知できるんだ」


 ブツブツ言う包丁を放置しながら、周囲を見渡している。なんだここ。まるで工事現場じゃないか。


「こんなところまで転移させて何がしたいんだ」


 確かに包丁がボヤくのもわかる。意味がわからないほど気持ちの悪いものはない。


『イヤアああっ!!』

「どうした司書ちゃん!ってなんだよこいつは!!」


 なんということだ。司書ちゃん(イカ娘)がウナギのようなヤツに絡まれている。全身にウナギが巻きついてやがる。


『やだ!やめてえぇ!』

「どうします、これ」

「助けるに決まってるだろアレン!お前酷いな」

「いや……なんかすいません」


 まったく、誰得なんだよイカとウナギの絡みとか、とはちょっと思うが祭司の仲間を助けないわけにはいかんだろ。しかし、包丁で斬りつけたら司書ちゃんの柔らかお肌(イカ)に傷がついてしまう。それはまずい。考えろ。考えろ。


 俺はウナギの胴体に掴みかかってやる。握り潰してやろうかてめえのエラとかなぁ!悶絶するウナギ。ヌルヌルしやがって!すっごい滑るよ!!司書ちゃんにも引っ付いてイカの匂いとかしてるけど!すまん後で謝るから!ウナギの野郎が堪らず前進して司書ちゃんから離れる。離れさえすればこっちのもんだ!


『あ、ありがとうございます……』

「それはいい!それより野郎……我慢ならん、ぶった斬ってやる!」


 いうが早いか、俺はヤツの胴体を横薙ぎにぶった斬ろうとした。だが。


「なんだこいつは!」

「まともに斬れないじゃねぇか!」


 ヌルヌルしているせいでまともに斬れない。まったくストレスのたまるウナギ野郎が!絶滅させるぞ!腹立ち紛れに持っているヤシの実で殴りつける。


「ウナギ野郎が!」


 一進一退だが、ヤシの実で殴りつけるうちに慌ててヤツが逃げようとする。縦、横、様々な工事現場の資材に隠れようとしているが……ウナギ……釘……


 ヤツが細い杭に顔を近づけた時に、俺はヤシの実でヤツの頭を杭に叩き込んだ。目打ちだ。


「捌くには固定しないとな!」


 腹を掻っ捌いて、やっとヤツを絶命させた。


『こ、怖かった……変なことされるかと思った……』

「変なことはされないと思いますよ」


 お前も結構酷いなアレン。包丁よりはましだが、一応女の子だと思うから優しくしなさい。

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