第14話
海への道を進んでいる。長野ちゃんに注文を受けた海藻の採取が目的である。ついでに邪神が襲ってくる可能性はある。もちろん危険性はあるが、旨いので襲ってきてくれることをつい期待してしまう。
もっとも襲ってこないなら襲ってこないでも、海岸に棲息している海産物を採取するだけのことである。海生人類仮説というものがあるが、実際には海に潜ったりしているより、海辺で暮らしていた可能性の方が高い。その頃の人間と同じことをするだけのことだ。
しかし謎なのは、海生人類仮説が正しいとするなら、人類は海藻も食料にしていていいはずである。ところが海藻を食べる能力があるのは、日本人くらい(厳密には違うが)だ。つまりなんだ、海生人類は日本人だけだったのか。……海藻食べない海生生物だって多いけど。
浜辺に近づくと当たり前だが磯の香りがする。もっとも連中が近づく時には、もっと匂いが強くなるというものである。
「さて、海藻採取のお時間だ」
「おまえは私を何だと思っているんだ」
海藻の仮根を切り落とすのに包丁を使おうとすると文句を言われる。まったく、そのくらいの役にはたてよ。
「人のことをなんだと思ってるんだ」
「マグロ包丁」
「お前な、いい加減に……ん、近くにいるぞ。それも、二体だ」
俺は包丁を構えて警戒する。二体だと。前のコンビネーションには苦戦させられたからな。そういう奴がまた来たら厳しい。
遠くから格闘する音が聞こえてきた。だがどうも様子がおかしい。
「おい、イスカリオテ、変だぞ」
「どうやら仲間割れのようだな」
「仲間割れというが、祭司の派閥と地球侵略企む典型的な邪神の類は仲間って言っていいのか?」
直立したセミエビのようなヤツが、ヤドカリ?を狙っている。捕食しようとしているのか?
「おい!お前ら!何やってるんだ!」
人間が呼びかけて話をする方が祭司より、でいいんだろうか?内容にもよるだろうけど。
「gatldpm. mjhddmjp」
セミエビもどきは会話する気がないようだ。ヤドカリのほうはどうだ?
『えぇっ?人間なのに?話せる?』
ヤドカリから可愛らしい女の子の声がしてきた。そっちの方がビックリだ。
「そうだが。こいつのおかげだ」
『ソードちゃん!なんでこんなとこに』
「祭司の仲間か!」
『そうだよ!あいつに狙われてるの!祭司に伝えないといけないことがあるのに!』
どうやら何か大事な情報を仕入れたようだな。
「手を貸すぞ!ヤドカリのお嬢さん!」
『ヤドカリ……あ、今はそうだった。でも、人間がどうして?』
「祭司には色々と世話になってるからな。恩を返しておかないと!」
『気持ちはありがたいけど、人間はあいつに勝てないよ』
ヤドカリちゃん優しいな。でも心配はいらんよ。ヤドカリちゃんとセミエビの間に割って入る。
「gmtmpw. lkgnurmd」
まったく何言ってるのかわからん。しかしどうやらこっちを狙っているのだけは確だ。
セミエビがこちらに突進してきやがった。単純なヤツだ。狙いはヤドカリちゃんかよ。させるか!
飛び込んできたところを前転して躱す。セミエビは一瞬俺を見失った。それがヤツの命とりとなった。
足元から胴体を縦に斬り裂く。斬撃の音とともにヤツの内臓が滴り落ちる。
『つ、強い……私よりも強い』
ヤドカリちゃんが震えるような声呟く。
「この人強いんですけどねぇ」
「なんで積極的にもっとやらないんだよ」
アフィラムやアレンは人のことを邪神駆除業者くらいに思ってるだろ。そりゃスズメバチ駆除業者だってスズメバチたべるけど。
『あ、ありがとうございます』
「いいよヤドカリちゃん。困った時はお互いさまだ。そちらこそ、いい
『し、しょくざい!?』
ヤドカリちゃんがドン引きする。助かったと思ったら殺人生物に出逢った気分なんだろうか。
セミエビというのはイセエビをも上回るほど美味い食材とも言われている。取れる量などもあり、超高級品なのは間違いない。今日はセミエビで一杯だな。
「祭司の仲間を食べるほど恩知らずじゃないから安心してくれ」
『は、はぁ……ところで……私、実はですね』
不意にヤドカリちゃんが身体を震わせる。
「な、何しているのヤドカリちゃん!?』
だんだんと色や形がが変わって行き、柔らかみを帯びた別の生物のかたちになる。
「い、イカぁ!?」
アレンが驚きの声をあげるが、こっちだってびっくりだ。なんでヤドカリのふりなんかできるんだよ、イカが!
『わたし、色々なかたちになれるんですよ』
「す、すごいな」
『この能力で潜入捜査してきたってわけです』
「でもバレたようだな」
『そうなんですよー。警戒が強くなったんですよー。なんだか危険なヤツが出現したらしくて。全裸で刃物振り回し、ありとあらゆるモノを食い尽くす、そんなのが』
「心当たりはなくはない。多分こいつだ」
おいこら包丁、俺は全裸で刃物振り回したりはしてないぞ。……それ以外は心あたりが不覚にもないことはない。
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