第13話



 香ばしいオウムガイの醤油焼きの香りが室内に広がる。予定どおりユムシを刺身に、タイノエは揚げモノにした。タイノエからも香ばしい匂いがする。


「うぉ、見た目以上に美味そうな匂いがしてきますね!」


 やはり若いだけあってアレンは腹の虫を豪快に鳴らしている。そうだろ、美味そうだろ。オウムガイはほぼイカ系の匂いだからなぁ。イカ焼きもいい匂いするじゃないか。


 祭司が何やら焼いて持ってきた。なるほどこれか。確かにビスケットみたいな感じだ。


『一応人間に必要な栄養素はほぼ揃っている』

「地球でもおんなじようなことを考える連中はいたな。完全栄養食品として飲み物にしたり、スパゲティにしたりしていたぞ」

『そうなのか。飲み物というのは思いつかなかった』

「ではちょっとつまませてもらうぞ。……ちょっと塩味足りないか」

『塩分過多ではないか?』

「他のものとのバランス取ればいいんだよ。野菜が足りんな」


 野菜の方はまだまだ生産中のようである。長野ちゃん経由で祭司に種を渡しているが、まだ芽が出たところのようだ。


「さて、祭司も飲んでくれ。あとで温泉に入るとしよう。まずはお疲れ」

「ほんとですよ」

「うわ美味そう、いただきまーす!」


 アレンがオウムガイに齧り付く。おいこらそれは地球だと高級食材だぞそんな食い方すんなよ!俺も慌てて食いつく。祭司がドン引きしている。


「祭司も飲んでくれほらほら」

『そこまでいうなら飲んでみるとするか。果実の酒を』


 触手をストローみたいにして飲み始める。しばらくすると祭司の顔色が赤くなってきた。おお祭司よ、茹でダコになってしまうとは哀れなり。


「大丈夫か?」

『見た目よりは普通なんだが、なんだろう、悪い気分ではない』


 アフィラムはと言うと、特に赤くなることもなく黙々と飲んでいる。


「お前はタイノエ食えよ!」

「いきなりなんですか!ってあれ、美味しい」


 食べず嫌いは良くないぞ。と言うわけで、色々食わせたり飲んだりした。一番美味かったのはやはりオウムガイだったな。他のも悪くはないが。


 一風呂浴びた後、俺たちは祭司のところにやってきた。


「そういえば祭司、さっき情報を手に入れたと言っていたが、どう言う話だ?」

『信奉者を捕食していた時に分かったんだが、大淫婦や黄の王は、地球侵攻を計画しているようだ』

「マジか!」

「どういうことです?」

『こちらの人類はほぼ絶滅寸前だ。そうなると、あとは我々は緩慢な滅びを迎えるしかない』


 まぁそうだろうな。苗床も失われ、繁殖もできないんじゃ絶滅やむなしだ。自業自得だが。


「それで地球侵攻と?」

『そうだ。絶滅寸前とはいえまだ人類は存続している。そいつをエネルギー源として※※※※※にアクセスし、さらなるエネルギーを得た後、次元跳躍で地球侵攻』


 一部聞き取れなかったが、なんにせよロクでもない話だ。


「ちなみにどのくらいの勢力で攻めるつもりなんですか?」

『約10万だ』

「じ、じゅうまん!?」

「なんだたった10万か」


 アレンの質問への祭司の回答の数、それは俺からしたらあまりに少なく感じるのだが。アフィラムはビビリすぎだろ。


『実際、磯野のような人間達を相手にするとなると多分あっという間に殲滅させられると思う』

「あなた達の国ってなんなんですか!」

『さらに最悪のシナリオとしては、こっちに攻め込まれて我々も食い尽くされる』

「えぇー」


 残念だが日本の水産資源の保護状況を考えると、祭司の危惧は極めてありうる事象である。攻めてくるようなバカどもは食い尽くされてもなんの感慨もないが、祭司まで喰われるとなるとシャレにならん。せっかくの友好的知性生命体だぞ。


『もちろん磯野のような連中以外のところに攻め込めば、人類の側が大量虐殺されることになる』

「しかしいずれ日本とかに攻め込もうとして、結局食い尽くされるんじゃないか?日本以外にも海産物大好きな国は結構あるぞ」


 日本以外だと中国、韓国、太平洋の島国、スペインなんかも結構海産物大好きだしな。これらの国々に攻め込めば返り討ちは十分にありうる。


 祭司は頭を抱えている。ムリもない。怪物が住んでいるのは日本に限らないのだ。


『なんとか侵攻自体をやめさせたい』

「気持ちはわかる。実行はいつ頃だ?」

『まだ先のようだ。早くても数ヶ月先だ』

「祭司、とりあえず飲んどけ」

「現実逃避するな」


 うるさいな包丁。今すぐいいアイデアなんて出ないだろが。頭空っぽにして、心機一転考えた方がいいってもんだ。



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