第12話



 オウムガイとユムシという最高級の酒の肴(魚ではない)を手に入れた俺たちは、やっと邪神温泉に近づいてきた。


 邪神温泉とは祭司に管理を依頼しているからってだけなので、別に邪神との混浴が楽しめるとかそういうわけではない。なお、食材としては邪神は出す。


「そういえばアレンって酒は飲める年齢なのか?」

「今年17なんで来年からですね」

「そうか、ならジュースだな」


 柑橘系やブドウのジュースをかっぱらってきたので、こいつで付き合ってもらう。


「アフィラムは飲めるのか」

「飲めますよ。しかし、それ食べるんですか!?」


 オウムガイを指差しつつアフィラムが寝ぼけたことを言う。食べるに決まってるだろ、むしろメインディッシュだ。


「食べるぞ!食べないんなら俺が全部食べるぞ!」

「……ご自由にどうぞ」

「でもお前も喰うんだよ!フィオナにも頼まれてんだよ!お前を鍛えるってなぁ!!」

「それ喰ったからって強くなれないでしょうが!」

「何言ってる。高い栄養価の食材、適切な運動、そして良質な睡眠こそが強さを生むんだ!」

「正論しか言っていないのに、猛烈な勢いで否定したくなるのは何故だ」


 包丁に人生を否定された。モノにまで否定される俺の人生とは。


「大体な、海産物の甘味はグリシンが主体だ。グリシンには睡眠改善の効果もあると言われているぞ」

「私はきちんと眠れてますよ最近は。ベッドで寝れているし」


 それは何よりだ。あとはしっかり邪神を狩って食べればきちんと強くなれるぞ。


 この期に及んで磯の臭いがする。しかし、磯の臭いに混じって腐臭に近い臭いがする。


「また来やがったな。今日は多くないか?」

「そうだな。周囲にはいないので、ピンポイントで我々を狙っているようだ」


 以前いた魚頭の邪神が、こちらにも現れた。あの時もしっかり食べたが……奴から妙な臭いがする。目も虚ろだ。


「おかしい。奴以外にもう一体の気配を感じる」

「……どこにいる?」


 上にも下にも右にも左にもいない。包丁がこれまで発見したことに嘘はない。


「アフィラム、アレン。迂闊に近寄るな。嫌な予感がする」

「言われなくても近寄りませんよ……」


 ヤツの正中線に狙いを定める。動き次第だが、前同様ぶった斬るのみ。ジリジリとヤツがこちらに近づく。ヤツの口が開いた。


「包丁!そこにイヤがるぞもう一体は!」

「口の、中だと!?」


 タイノエという寄生虫である。タイの口の中で成長し、死ぬまで吸血し続けるのだ。しかもこいつ、デカいぞ。タイノエが変形しつつ、こちらに狙いを定めている。まさか!?次の瞬間、タイノエが邪神から飛び出してこちらに襲いかかってきた!


「なめんなよ寄生虫が!」


 包丁を振り下ろす。しかし、俺の一撃をかわしやがった!なんだその速さは?身体を縮めて再度こちらに狙いをつける。


「そっちがその気なら」

「どうする!?」


 俺はヤツに背を向け走り去ろうとする。


「逃げるんだよぉ!!」

「なんだと?戦わないのかお前は!?」


 包丁が半分キレながら叫ぶ。当然のように追って飛びかかってくるタイノエ、だが。


「なーんてな」


 振り向きざまに横一閃。今度は仕留めることができた。


「ナイス包丁」

「お前の考えは読めると言っただろう」

「あなた達の考えが理解できない……」


 そういうなアフィラム。敵を騙すにはまず味方からだ。


「まさかと思いますが、この寄生虫は食べないですよね!?」

「食べるよ」

「うぇ!?」


 まだまだだなぁアレン。これからもっと強くなってもらわなければいかんな。主に精神的に。


「タイノエも甲殻類だぞ。普通に揚げれば川海老のような風味になる。大体な、タイの血吸ってんだぞ。美味くないわけねぇだろ!」

「……そうだ俺は強くならないと!強くならないと!」

「……強くなる前に、精神病むのでは?」


 この程度で精神病むわけないだろアフィラム。アレンを甘くみるな。


「ではこいつも今夜の酒の肴にしよう」

『またずいぶんと狩ったな……やはり、我々と彼らがぶつかると……』

「祭司!」


 鍬を持ってやってきた祭司を見て、第一次産業に従事する邪神というのはアイデンティティをデストロイしているなとつくづく思う。


『元気そうというか相変わらずというか、まぁいい』

「祭司も元気そうだな」

「いや、相変わらずなのはよくない」


 うるさいぞ包丁。黙ってろ。


『実は、ある情報を手にした。是非聞いてもらいたい』

「メシにしながらでならいいが。祭司は酒は飲めるのか?」

『飲んだことはないな。試してみてもいいかもしれないな』


 そういうことになった。

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