第10話



 カルデラの外に、俺はアフィラムとアレンを連れて邪神しょくざい調達に出る。長野ちゃん依頼の昆布とワカメの回収もしないといけないから、海にも寄って行こう。邪神かいさんぶつが向こうから寄ってくるんじゃないかと期待している。


 山を下って行き、第一目的地を目指そう。まずは温泉だ。温泉に男三人とかどういうことだと言われそうだな。需要?なんのことだ?


「それにしてもなんで私まで……」

「お前が温泉行きたいって言ったからだろうが」

「全くだ」


 ブツブツ文句を言うアフィラムに反論すると、珍しく包丁が俺に同意する。お前はもっとこう強くなれよ。アレンが何かききたそうだ。


「温泉ってどんな感じなんですか?」

「いや、単純にお湯に浸かるだけだが。まぁ気持ちはいいな」


 温泉に行くついでに、貴重品の酒も持ってきた。長野ちゃんの醤油の一部をメルトリウスと交換した。異世界でわらしべ生活はじめました。あとは邪神つまみがあれば温泉旅館っぽくなる。


「温泉旅館にだが、俺を色々と助けてくれた邪神がいるからそいつは襲うなよアレン」

「私も世話になったな」


 アレンがこっちを見る目が怪物を見る目から、珍獣を見る目になっている。


「世話になったって何してもらったんですか?」

「食材提供してもらったし、あとは色々教えてもらったり、共闘もしたな」

「……邪神なんですかその人?」

「今は農作業とかしてると思う」

「やっぱり邪神じゃないだろその人!」


 見た目タコっぽいから多分邪神でいいとは思う。邪神なのに邪神じゃない呼ばわりされる祭司の、アイデンティティは何者だ。


 山を降って行くうちに、潮風を感じる。……いや、そんなに海は近くないぞここは。つまりはやってきたわけだ。


邪神つまみが」

「あれは……なんだ!巨石が転がってくるようじゃないか!」


 アフィラムが指差した先に、転がってくるカタツムリのような巨大な貝殻が見える。こちらに突っ込んで来る気か!?だが!あの大きさではそう簡単に曲がれまい!


「お前ら、避けろおぉ!!」


 三人同時に左右に跳び、転がる貝殻を躱す。貝殻は岩場に当たって止まって倒れる。貝殻から何かでてきた。目がある。さらに触手が伸びてきた。


「オウムガイだ……」

「オウムガイ?」

「タコやイカと貝の類は存外近縁なんだが、初期に分化した種がオウムガイだ」


 日本ではオウムガイを見る機会というのは水族館くらいしかない。ヤツがこちらを睨む。オウムガイというのは目がピンホールカメラの原理で構成されていて、我々人類などの哺乳類や脊椎動物、タコやイカのようなレンズを持たない。極端に言うなれば節穴である。


「また立ち上がろうとしてませんか?」

「もう一回突っ込んで来る気だな」

「当たったら痛そうだ、ではすなまさそうだが」


 アフィラムのいうとおり、かなりのでかさのヤツの直撃を喰らったら最悪死にかねない。ヤツはキョロキョロとこちらを探している


「目はあまり良くないのか?」

「嗅覚が優れているんだ。こちらの位置は臭いでわかる」


 俺は包丁を構え、次のヤツの動きに対応しようとする。


「どうするんです?」

「決まってるだろ!今日の邪神メインディッシュなんだからきっちり料理する!」

「しかし、あの殻を私が貫けるかどうか」


 包丁のいうとおり、なかなかに外殻は硬そうである。


「別にお前は外殻貫く必要はないって」

「しかし、それでは倒せないぞ」

「いや、倒す」


 オウムガイが立ち上がった。再びこちらをめがけて転がり始めた!


「そんな大技!」


 転がって来るオウムガイは、俺を確実に轢こうとしている。なかなかの殺意である。俺もギリギリまで躱しはしない。


「おい!轢かれるぞ!」


 包丁が絶叫するが、そんなことはわかっている!半身になりスレスレにかわしつつ、殻の上部を蹴り飛ばす!


 オウムガイのヤツは見事に廻りながら倒れた。ぐるんぐるんと回り続けるオウムガイの頭にゆっくりと近づく。


 触手と頭を出したところを包丁で串刺しにした。無言で絶命したようだ。轢き殺すつもりが斬り殺されるとはな。


「さて、早速こいつを持って行くとするか」

「え?これ食べるんですか?」

「食べるよ!」


 アレンが頭を抱えているが、オウムガイというのは日本ではまず食えない超絶高級食材だし、南太平洋地域でもかなりの高級食材として扱われている。


 味の方は美味いという人、不味いという人様々だが、おそらく栄養状態が左右すると思われる。こいつはかなり栄養状態良さそうなので期待ができる。


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