第9話



 顔役のメルトリウスだが、具体的にいうと某宇宙戦争に出てきた最初の師匠みたいな感じだ。強いのかどうかはわからないが。


 そのメルトリウスが俺を見る目は、多分暗黒面に堕ちたその弟子を見る目よりはるかに冷たい。


「メルトリウス」

「どうしました漁師フィッシャーマン

「……正直なところその名前では呼んで欲しくない」


 ピナーカってひょっとしてあの病気に感染しているのか?中学二年生位で感染するあの病気に。


「やれやれ、それで何か」

「彼はみゆきの近くの土地の出身のようだ」

「なんと。どおりで……」


 なんで納得されるのかわからないが、長野ちゃん何をやらかしたんだよ一体。


「少なくとも信奉者ではない、安心してほしい」

「すまないな、ピナーカ」

「気にすることはない」

「私にもそれくらいたまにはいってほしい」

「そう思うならそういう態度をだな」


 包丁は相変わらずだな全く。何笑ってんだよ長野ちゃんも他のメンバーも。


「そういえば信奉者で思い出したのですが、数日前に信奉者らしい者たちを確保しました」

「そう、それでどうしてるの」

「牢に閉じ込めて居ます。終焉の地から来たとかなんとか意味不明なことを言っていたのですが」


 ちょっと待ってみようか。俺たちは今さっきそっから来たって言っただろうが!


「おいこらおっさん」

「なにを急に」

「俺さっきも言ったけど、終焉の地から来たんだが。包丁もそこで見つけて」

「あっ」


 メルトリウス、やっちまったな。どう責任取るんだよ顔役。


「あっ、じゃないだろうが!その中にアフィラムって奴とかいたんじゃないだろうな!」

「……すまない」

「まぁほかに意識が戻ってない奴もいたと思うから、気持ちはわからんでもないが」


 慌ててメルトリウスが部下に話をつける。どうやらフィオナもそっちに行くようだ。


「おっさん後で土下座しとけよ」

「土下座とは、なんでしょうか」


 ……言葉が通じるのに意味が通じないって結構不便だな。


 牢屋の中のアフィラムにまた地味に嫌味を言われたが、正直なところここに来たのそっちより後だぞ。まぁ温泉とか行ってたけどといったら、いきなりはたかれた。後で連れてってやるから勘弁しろ、というとひとまずは納得してくれたようだ。


 アフィラムやフィオナらと別れた後、俺と長野ちゃんはあるところに向かうことにした。ちょっとした洞窟である。少しひんやりしている。ここはメルトリウス公認の長野ちゃんの工房のようだ。


「麦麹の味噌だから、ちょっとあっさり目だけどね」

「いや十分だ。長野ちゃん凄いな」


 この歳で異世界で味噌作れるのって十二分に才能、いや才能という域を超えている。


「実家が造り酒屋だからね」

「なるほど……農学部なのもそれが目的か」

「あんまり実家には戻りたくない気もするんだけど」

「なんでさ」

「まぁその辺りはおいおいね。では、手前味噌ではございますが」


 ついに、やっと念願の味噌を手に入れたぞ!これで味噌汁やら味噌焼きやら醤油やら……邪神しょくざいの調理法が無数に脳内を駆け巡る。


「百万の味方を手に入れた気分だ」

「そんな大げさな」

「いやいやそんなことはない。俺が今渡せるのはこれくらいだ」

「……昆布?結構いいやつに見えるけど……いいの?」


 こんな海藻で味噌が手に入るなら安いものだ。俺たちは再びがっちりと握手を交わした。もう包丁も何も言わなくなった。やっと諦めたか。でも少し寂しい。


「さて、味噌を手にしたからにはまた邪神しょくざい探しに精を出すか」

「正直なところ、お前を襲う邪神は自業自得とはいえ哀れというかなんというか」


 そういうな包丁、所詮この世は弱肉強食……たまたま喰う側喰われる側がひっくり返ったりすることもある。ヘビを喰うカエルとかいるしな。


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