第6話

 


 飛びイカを堪能し、久しぶりにソファとはいえ硬くないところで寝られた翌朝。気分は上々である。


 残念ではあるが祭司とはしばしのお別れだ。さすがに一般人の中に祭司連れて行くのは厳しい。


「すまんな、またすぐ来るから」

『気を使うことはない。こちらも1人ではないしな』


 祭司は信奉者たちの洗脳……もとい脱洗脳を試みているようだ。若干ではあるがエネルギーも採取できるという。


『農作業をできる土地もあるな。試してみるか。それに他にも試したいことがあるのでな』

「なんだよ。人間をどうこうする系ではないとは思うが」

『まだ言えない。そちらにも悪いことではないから安心してくれ』


 祭司と信奉者たちはこの辺りで農作業をするのか。健康的な邪神という新たな単語がこの世に生まれた。


 まだ眠そうな長野ちゃんとフィオナ、ムダに元気なマギエムには山程荷物をもたせ、旅立つことにする。……祭司たちの姿が見えなくなってから、俺は長野ちゃんに聞いてみることにした。


「俺の予想なんだけどさ、人間の街ってあるんだろ?比較的近くに」

「あたり」


 フィオナが怪訝な顔をする。


「えっ……そんなことって……」

「それが、ありえたってわけ」

「バカな、私も聞いてないぞ」


 包丁も知らなかったのか?どうなってんだよおい。


「邪神連中、基本海の中がメインの生活の場だからか?節穴か?」

「見落としとかじゃないの。ここって火山でしょ。火山の影響で地下水脈に邪神連中にとっての毒が流れてくるので迂闊に近づけないんだって」

「うーむ、それはわかったけど、それにしても人間に知らせないってどういうことなんだよ」

「余裕は割とあるんだけど、信奉者対策が一番の要因かな」

「信奉者……あのゾンビもどきか」

「アレは多分不適合者ね」


 また知らない単語が出てきた。


「信奉者にも色々あって、不適合だとあんなゾンビもどきになるんだけど、適合者は普通の人間に近いから性質が悪いわ」

「俺たちはなんで信奉者じゃないってわかったんだ?」

「さすがに信奉者がその剣は持てないと思うから」

「どういうことなんだよ」

「私から説明しよう」


 ピナーカ(長野ちゃん命名)のせつめいコーナーが始まった。


「我々のような対邪神武器とは、つまるところ邪神から構成情報を奪う存在なのだ。人間から邪神がエネルギー源として情報を奪うのと同様、邪神から我々が情報を奪う」

「それで?」

「とはいえ、対邪神武器を使えるのは限られた存在なのだ。邪神の精神操作に耐性があるような人間」

「なんか日本人限定だと結構いそうな気が」

「耐性がない人間が我々を持つと意識を持って行かれることになる。信奉者になるような邪神寄りの人間なら間違いなく昏倒するな」

「おっかない武器なんだお前ら。なるほど、確かに対邪神武器持ってるなら信奉者の可能性はまずないな」

「そういうこと」


 山道を進んでいく。こうやってみると植生もそんなに地球と変わらない。そんなに?いやむしろ変わらないってのがおかしいんだが。


「ちくしょおおおおぉぉぉ!!」


 叫び声が聞こえてくる。


「近くにいるぞ!叫び声の方だ!」

「よし!昼飯がむこうからやって来たな!」

「こんどは美味しいかな」

「もうツッコまない。私はツッコないぞ!」


 包丁に呆れられたのはやはりボケが二人になったからか。トリオは包丁には難しいようだ。


 少年がこちらに向かって走ってくる。手には何か武器を持っているようだ。


「おい!あんたら逃げろ!」


 現地の少年か?言葉と口が一致しないが、理解できるのは包丁の翻訳力のおかげである。この包丁持って帰って語学試験に使いたい。


「逃げるって?」

「邪神だ!クソっ!奴らには勝てないのかよ!!」


 見ると槍でもさされたのだろうか?手負いのヒトデが、異常な速度でこちらに向かってくる。立ち上がってるし。マヒトデに見える。こいつはラッキーだ。


「ヒトデか……今日の昼は決まったな」

「ちょっ……食べられるの!?」


 長野ちゃん、ヒトデはメジャーではないとはいえ、それなりには食べられているぞ。だいたいウニやナマコと同じ棘皮動物。食べられても不思議はないだろ。


 ヒトデが食べられるのは九州の天草の方などだ。食べるのに向くヒトデは限られている。ヒトデもウニと同じように卵巣が一番美味である。内臓は食べられなくもないが、オススメではない。


「ヒトデだってウニとナマコの親戚だぞ」

「ううっ……よその県の人って怖い」

「……よその県とかじゃなくこいつが怖いんだと思うぞ」


 結局突っ込むんだなお前。ツッコまないといられない性質なのか包丁は。


「何やってる!早く逃げろ!」


 少年が叫んでいる。いい子だ。だが。


 長野ちゃんが槍で一撃し、ヒトデの足を止める。止まったのを確認し、俺は縦一文字にヒトデを斬り裂く。おお。こいつは旨そうな卵巣だ。思わずヨダレが垂れてしまった。


「あんたら……なんなの?何者なんだ?」

「少年よ、私がいうのもなんだが、こういう連中だ。諦めてくれ、色々」


 包丁はそろそろシメたほうがいい気がする、一度。それにしても、バケモノにでもあったような顔で俺と長野ちゃんを見つめる少年よ、そんなに見つめないでくれ。照れるぜ。

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