第20話



 地面が、揺れる。

 急激な振動により、空が……いや、海だ!海が泡立つ。この終焉の地は泡沫うたかたの存在であることは包丁に言われて知ってはいた。だが本当に、泡と消えるのか……


「まさかこの地ごと消滅させにくると言うのか!」

「ど、どうすれば……」


 オロオロしてんじゃねぇよお前ら、と言いたいところではあるが、現実問題力の差は歴然だ。包丁ですらここまでは想定していなかったということか。しかしいくら巨大な存在であるとしても、終焉の地もかなりの広さなはずだ。俺たち結構歩いてたぞ。これそのものどうにかできるって、天変地異かよ。


「祭司!あいつの本体は、アレか!?」


 俺は、絶叫しながら大気と胸を震わせつつ、周囲に激震を引き起こす全裸女邪神を指差す。


『……いや、アレはあくまで端末だ。本体は最も奧にある』


 やはりか。アレ斬るのは人間斬るように思えるから抵抗感あったので、ある意味助かる。


「イスカリオテ!本体の特定は!」

「できるわけないだろう!あの巨体はおろかこの辺り一面邪神だらけだ!」


 使えない包丁め、と言いたいところだがさすがにムリか。すまん包丁。海が三分に邪神が七分とでもいいたいのか?どうする、どうすればいい?振動が激しくなる。立っていられない。祭司までへたりこんでいる。力の差なのか?天災相手に人間ができることは少ない。


 目の前には、ポーズを決めたまま倒れ込んでいる残念全裸の、見たくもないパーツがある。服着ろや!……待てよ?


「祭司!手伝ってくれ!」

『構わんが何をする気だ!』

「イケニエを捧げてやるんだよ!」

『イケニエ?』


 さすがに気絶している残念全裸を、祭司と2人で持ち上げる。


「上手く行ったらお慰みだ!」

『まさか……』

「突っ込むぞお!」


 残念イケメンバリアーを2人で持ち上げ、大淫婦の娘とやらに突入を敢行する。邪神の群体がドン引きしているのか、黒っぽい色に変色しながら避けている。お前この残念イケメンどんだけ嫌いなんだよ、大淫婦の娘。全裸女邪神パーツまで、残念イケメンバリアーを避けようとしている。なんだか凄い絵になってきた。


 地面の揺れが収まってきた。今がチャンスだ。逃げようとしている群体の中に残念イケメンと共に突入だ!


『krnkrnkrnkrn……クルナァァァ!!』


 うるせぇそうはいくか、お前のようなヤツにかける慈悲はないってんだよ本体はどこだ!残念イケメンを盾にしながら包丁を邪神に突き立て続ける。


 ……イケメンを避けつつも、包丁を防ごうとする場所がある。そこかよ!


「刺し身に、なれえええぇぇぇっ!!」


 無数のヤリイカに似た邪神体の中に大きなコウイカのようなヤツがいる。極彩色を放ちながら逃げようとしている。まさかこいつが!


 コウイカに包丁を突き立て、内臓はらわたをブチまけると共に、大地の振動が収まってきた。その他のパーツはだんだんと逃げ出していく。こいつらも本体に操られていたということなのか?


 イカの中でもコウイカの類は最も美味とされている。刺し身にして食べるには実に良い食材である。倒しがいがあった。一口口に運ぶ。旨い。あー酒飲みたいいい刺し身醤油使って食べたい。これで色々なイカ料理作りたい。


 イカまみれの残念イケメンは、まだぶっ倒れたままである。今回のMVPは君だ。ほら君にもコウイカの刺し身をちょっとあげよう。気絶したままのイケメンの口にコウイカを放り込む。早く起きないと味が楽しめないぞ。


 ふと周りをみると、空が青かった。


「あれ……これはもしかして、海の上なのか?」

『そのようだな』


 終焉の地が崩壊し、大淫婦の娘を倒したのはいい。他のみんなは?近くにはフィオナだけ倒れている。


「あ、あ、あ、あ……」

「どうした!?」


 俺は無言で涙を流すしかなかった。なんてことだ……今まで共に過ごしてきた仲間をこんなことで喪うとは……


「なんてことだ……どうしてこんなことに……」

「……ん?なにかあったのか?」


 刺し身をもぐもぐしながらイケメンが目覚める。こいつほんとイケメンだよなぁバカだけど。


「く、くそおおおお!」


 俺の叫び声でフィオナも目覚めたようだ。涙を止めることができない。


「な、鍋がああぁぁぁっ!!!」

「お前いい加減にしろよ」


 そうだ、鍋にでかい穴が空いてしまったのだ!包丁にどやされたが、この世界で貴重品の鍋を喪うということの意味がわかっているのか!


 喪ったモノの大きさに、俺は涙を流すしかなかった。


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