第18話



 ねんがんの おりーぶおいるを 手に入れたぞ!


「やっと揚げられるな……一気にバリエーションが増える!」

「ブレないですね」

「その執念には感心せざるを得ないな」


 アフィラムと包丁ににバカにされてる気がするが、そんなことはいい。そりゃそうだろ、たかがと言われそうだが探し求めていたオパールにも似た光沢を放つその液体をやっと、やっと手に入れたんだぞ!わかってないだろお前ら!


「さて、何を炒めたり揚げたりするかだな。せっかくだから揚げたい」

『何故だろう、寒気がしてきた』

「大丈夫ですか?」


 フィオナよ、心配しなくても食材の提供者(身体とは言っていない)を食べる程恩知らずではない。まぁどうせ向こうから来るだろうとは思うけど、人類食い尽くし地球すら狙う邪神連中。ならばこちらも食い尽くすまでだ。生存競争だ。


 ……不意に違和感を感じた。気配を建物の外から感じる。


「まずい!囲まれた!」

「邪神感知では祭司以外の反応はないぞ」


 包丁が反応しないということは邪神ではない、ということだ。しかし……人間?違和感は消えない。磯の匂いはほとんどしない。


『これは……どういうことだ!?確かに何かがいる!』

「祭司も気づいたか。何かが変だ!」

「どうするの!?」

「まずは外の様子を見る!みんなはここで待ってろ!祭司も待っててくれ」


 俺はアフィラムとフィオナ、祭司を建物の倉庫に隠し、気づかれぬよう窓の陰から外の様子を伺う。


 ……人間だ。だが様子がおかしい。動きがまるで映画のゾンビのような挙動だ。目も虚ろである。生きてるのかこいつら?


 倉庫に戻り2人と一柱に外の状況を話す。


「外にいるのは人間だが……目の焦点が合っていない」

「目の焦点」

「なんかうめき声をあげて両手をだらんとしている」

「怖い」

「祭司、心当たりはあるか」

『発狂した人間の身体を使う邪神は割と多い。延髄を経由して操作している』


 寄生生物みたいなことをやるんだな。確かに発狂させた後の人体を有効活用するにはアリ、なのかもしれない。


「延髄か。つまりそこをどうにかすると奴らは止まるということか」

「それより人体動かしてる邪神食べた方が早くないか?」

『揚げるつもりなのだな』

「でも邪神のところに行く前に人間に捕まらない?」


 フィオナのいうことももっともだ。20人以上のゾンビのような挙動の連中がいる。


「包丁、祭司以外に邪神はいないのか?」

「……かなり遠くだ」

「どうするの?」

「カタパルトも届かないぞ」


 さて困った。遠隔攻撃で始末するというのも1つの方法ではあるが…弓はないしカタパルトでは室内から届かない。投げ槍とかもあるといいのだが、それもない。


 とすると、あとはもう人間を抑え込むしかない。しかし殺したりするのはまずい。何か、何かないか……待てよ。


「よくよく考えたらだ、あいつらもそんなにいいもん食ってないよな」

『私も栄養のバランスは考えてはいたが、それでも少なめにはしていた。あまり動かない状態の人間たちだったからな、食べさせ過ぎると太る』

「それは正しいと思うが、今は逆だ。ゾンビみたいにうーうー言ってる連中だよな。なら喰わせてやろう」


 持ち歩いていたスルメを用意する。それにしてもデカいなこいつは。


『悪いがあんまり見せて欲しくない』

「おお、すまん。……お前からしたら死体の干物みたいなものか」

『ああ』


 上手くいけばいいが、一か八かの勝負にでさせてもらおう。建物を出ようとした途端、早速ゾンビのような挙動の人間に襲われる!


「これでも……くらえぇ!!」


 ゾンビもどきの口にスルメを大量に突っ込む。ゾンビもどき、嚙みつこうとしてたところに食欲を満たされる邪神くいもの提供され、口をモグモグしている。別に本当のゾンビではないからなぁ。腹も減ってるし、そりゃこうなる。


 立て続けに襲ってくるゾンビもどきの口にスルメを突っ込み続ける。ゾンビ相手には普通なら噛まれたら負けだが、噛みついたら勝ちとなると返って楽なもんだ。ゾンビもどき、みんなモグモグしはじめた。残りをクジラの骨の皿の上に置いて、ゾンビもどきみんなに食べてもらおう。


 遠くから邪神の悲鳴が聞こえる。どうやら食感を共有している模様である。ある意味地獄の責め苦だな。人間に例えるなら、死体を口に突っ込まれる情報を脳に直接送りつけられているようなもんだ。


「そこかぁ!!!」


 俺は猛烈な勢いで、悶絶しているイカの邪神に襲いかかる。飛び蹴りかませて転がし、胴体を両断する。据物斬りと変わらん。また旨そうな邪神モノを斬ってしまった。


「さてと、早速!」

「もう包丁は別に用意してほしい」

「それだとお前の出番半減以下だぞ」


 早速イカの足を包丁で斬って、持ち帰ることにする。建物に戻ってきた。ゾンビもどきたち、まだスルメを食っている。


「祭司、ちょっと悪いんだが、こいつらの分のビスケットちょっと貰えないか?」

『構わんがなにをする気だ?』

「こいつらにちゃんとしたものを喰わせてやろうと思う」


 ビスケットを粉々にし、イカの足にまぶす。そのままオリーブ油で揚げていく。こんなん絶対美味いぞ。


「アフィラムもフィオナも食ってみろ」

「なんか美味しそうな匂い!」

「むう……確かに」


 ゾンビもどきたちにもゲソ揚げを食わせる。アフィラムもフィオナも無言でどんどん喰っている。ゾンビもどきたちの目の焦点が合ってきた。


「……あ、あれ?私達は?」

「い、一体何が?」


 正気を戻した人間たちが次々と現れる。


『ば、バカな!?正気を喪った人間の意識が戻っただと!?』


 どこかの家政婦のように、祭司が元ゾンビもどきたちを見つめている。そんなにびっくりするようなことなのか。


『お前は一体、なんなんだ』

「通りすがりの海産物ずきの一般人だ」

「お前のような一般人がいるか」


 これだけ旨いもの喰わせてやったんだから、お礼の一言も言ってほしい。この世界に早く礼儀を教えないと。特に包丁。お前の造物主の祭司は礼儀を教えるのを忘れてただろ。製作者責任法ってのがあるんだぞ。

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