第15話
誰かを救うのに理由はいらないとはいうものの、なんで助けちゃったんだろうか。まぁ、助けることで少なくとも情報は入手できると前向きに考えよう。包丁と話すよりは人妻と話す方が精神衛生上よろしいと思うし。
「さて、これからどうしたものか」
「それにしても、イソノさんはどうして邪神を倒せるんですか?」
「家に邪神が出たんで修行したら倒せるようになった、包丁で」
「……何故だ、何故そこで包丁」
「うちにある刃物なんて包丁以外にないだろうが普通!」
包丁に言われるのはどうかと思うんだが、無闇に長モノ持ち歩くと銃刀法違反でしょっぴかれるって国、それが日本です。太閤検地以降なのかなその風潮。fxxkだ。
「……規格外なお人だ」
褒めてるのか貶してるのかはっきりしてほしいぞアフィラム。
「そういえば、2人はなんで喰われたり苗床にされたりしてたんだろうか」
「たまたまだと思います。苗床はクジなどで犠牲者を決めていました」
「喰われる方は足が遅い者から捕まっては食べられていました。私より先に結構食べられていたようです。他に生存者がいる可能性は否定しません」
ふーむ。さて、これからの方針としてはだ。犠牲者を助けるってのもそう悪くはない気はする。何しろ俺は一切この世界について、理解していないからなぁ。無論邪神を食べるのはやめる気はしない。邪神が超うまいモノを喰わせてくれるならすこしは考えなくもないが。
あとはまぁ、地球に帰る方法だな。邪神が地球を恐れているというのなら、いっそこの地の人類みんなで地球に行くのも悪くないのでは?というわけで早速提案だ。
「今考えているんだが、邪神を食べつつ犠牲者を救って、みんなで地球に行かないか?」
「地球?それはどこですか?」
「俺が来たところだ。奴らが何らかの手段で地球から俺を持って来たんだ。持ってきたということは逆もできるはずだし、大体邪神も来てたからな」
「でもあなた連れてくるの大変だったのでは?」
「……色々あったんだよ」
あんまり思い出したくもないが。師匠からしたら「平常心が足りない」とか言われそうである。でもあの状況下で平常心でいられたら化け物だ。
「にしてもどうやって行くんですか?」
「イスカリオテ、何か知らないか?」
「……邪神は、人間を恐慌状態に陥れることに成功した際、人間サイズの存在を越次元させることが可能になる」
「……俺は邪神に恐慌状態にさせられたと?」
「そういうことになるのだが……なんか違う気がする」
おい包丁、いい加減なこと抜かすなよ。邪神は恐慌状態にさせる方法あんなんでもいいのかよ。
「でもお前連れて来たのは失敗としか思えないな」
「まぁな、色々喰ってるし」
「おまけに現地の人間にも喰わせたわけだ」
フィオナは多少食欲が出て来たのか牡蠣をモグモグしている。アフィラムにはシャコを喰わせているが、あまり食べていない。お前はもっと食べて戦力になれ。
「とはいえ……邪神連中がお前を狙ったのには何か理由があるように思える」
「何となくだが思い当たるフシはあるな」
「研究目的ではないか?」
包丁のいうことは多分正解だ。殺虫剤のメーカーは、大量の家庭内害虫を飼育しているのはご存知だろうか?無論、殺虫剤の効果を確認する目的だ。つまり、邪神が地球侵攻を行う為には、邪神襲って喰うような俺みたいなヤツを研究する必要がある、とまあそういうことか。
「俺は家庭内害虫みたいな感じの研究目的で採取されたと」
「おそらくな」
「ところが採取したはいいが食い殺されて逃走したと。おまけに邪神の味も覚えた」
「どっちが悪だかわからなくなるな」
「俺は
「
「微妙に違うことからすると、包丁は知らないだろうが、そっちだとラブアンドピースの人だぞ」
なんていうか色々な方や色々な方面にすいませんと謝罪しないといけない気がする。
「研究目的ということは、サンプルが逃げたら当然捕獲しようとするな」
「だとすると新たな旨そうな奴らが来ると」
「勘弁してください」
お前もキリキリ戦うんだよアフィラム。お前も人間嵐一味なんだからな。
「海の匂いが強くなりました」
「来るな」
「来ないでほしい」
「なんでだよ、向こうから
一体のエビのような上半身で、下半身が二足歩行の邪神が現れたが、前のエビより片側だけ極端にハサミが大きい。このハサミ、見たことがある。
「テッポウエビか!」
「なんですかそれ」
テッポウエビというのは、ハサミから衝撃波を発生させ、獲物を捕獲するというとんでもない連中である。衝撃波は音速にも達し、衝撃発生時には光すら放たれる。
「ハサミから衝撃波を発生させるエビだ!」
「なんですかその怪物!」
「普通に海の中にいるんだよ、サイズはこんなにデカくないが」
しかし、テッポウエビは水中で衝撃波を発生させるはずだ。大気中ではキャビテーションは発生させられないのではないか?
そう思っていると、テッポウエビの背後からもう一匹現れた。なんだこいつ?ハゼのようなそうでないような……テッポウウオ?
……猛烈に嫌な予感がする。
「全員伏せろぉ!」
俺はいうが早いかアフィラムとフィオナを地面に押し付けた。猛烈な爆音とともに発光した何かが頭の辺りを通り過ぎる。
「コンビネーション・アタックかよ!」
テッポウエビとハゼは共生関係にあり、視力が弱いテッポウエビをハゼの目がフォローする。ハゼの目とテッポウエビの火力で敵を撃退するのだ。しかしこいつらは微妙に違うようだ。ハゼのようなテッポウウオのような奴は目と水の供給、テッポウエビが火力担当か。
「2人とも」
俺は2人に耳打ちする。
「走れぇ!」
脱兎のごとくアフィラムとフィオナが駆け出す。俺は魚とエビの前で、八相に構える。
「さてと、どうしたものか」
「飛び道具とはな」
ハゼのような魚が口から水をハサミに供給する。やはりか。オラオラよく狙えよぉ!
「こっちを、見ろぉ!」
俺は絶叫する。想定通りに水衝撃波をぶっ放して来るテッポウエビ野郎。速い速い速い、もう少しで当たる!当たったら死ぬ!
「意外に連射してくるなくそ」
「間合いに入れないではないか!」
接近戦が出来なければ包丁も宝のもちぐされだ。ここは回避に専念するしかない。水が切れるのを待つしかない!
あれ?魚野郎どこに行った?と思ったら穴の中から出て来やがった!
「水まで補充された!」
「なんて連中だ……」
回避に専念ではいずれやられる……どうしたらいい……
「なーんてな」
魚野郎が穴に戻ろうとした瞬間、石が飛んできた。 2人とも、やってくれたな。
「次の石を用意して!」
「わかった!よく狙うんだ!」
2人がカタパルトで石を飛ばしてくれたおかげで、魚野郎とエビが分断された。
「まずはお前だ魚ぁ!」
口から袈裟懸けに斬り裂く。もう、水は供給できないな。目を串刺しにする。これで狙いもつけられないだろうがよ。
エビが衝撃波をぶっ放してきたが、十分に狙いをつけることが最早できないらしく、明後日の方向に波動が飛んでいく。スキができたところにカタパルトから飛ばされた石をハサミに突っ込む。げ、石が壊れた。ならばだ!
「関節を捻じ曲げる!」
裏投げでエビを投げ飛ばす。頭からエビが地面に激突し、ハサミも壊すことに成功する。ひっくりかえったエビの腹を包丁で斬りさいた。
「コンビネーションとコミュニケーションで人間に勝てると思うな邪神」
……コミュニケーション取れてなかったから、こんなところにきたんじゃないかというツッコミはやめてくれ、悲しくなるだけだから。
「あまり食用にはされないが、テッポウエビも意外に旨いらしいからなぁ。期待できるぞ」
「なんで食用にされないんですか?」
「量が取れないから」
結構そういう食材は多い。美味くても安定供給できないものは食材向きではないのだ。早速エビとハゼを焼く。かなり旨そうな匂いがしてくる。
「2人ともよくやってくれた、どんどん食べてくれ」
「いただきます!」
「……私もとうとうクマと同類か……」
アフィラムはフィオナの前向きなところは見習ってほしい。旨いもの食って元気出せ。実際結構イケるなテッポウエビ。
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