第12話



 シャコを食べつつ、涙を流しながら部屋に戻ってきた。俺を裏切ったあの女と一緒にいるのはキツいが……ん?ちょっと待て。


 眉毛が、茶色い。

 俺の元彼女も髪の毛を茶色くしていたが、眉毛までは染めていなかった。一方この女は、眉毛も茶色い。地毛かよ。……別人なのか。


 なんか更に泣けてきた、色々と。じゃあこの女の子は誰なんだよ。アフィラムのヤツがこの女の子を見るなり殺さないと、と言ったのは、まさかアフィラムも寝取られたのか誰かに。でもだからって殺すのはやりすぎだろうが、気持ちは分からなくもないが。俺なら相手を殺す。地球に戻ったら寝とった相手を殺そう……でもよく考えたらあいつら邪神に操られていたくさいから、そういう意味ではもう殺してたな。


 さてと、このまま放置していたらこの女の子、邪神に腹を食い破られて死んでしまうことになるな。そうはさせるか。邪神連中の思い通りにはいかないことを、ヤツらに思い知らせてやる。


「例の海藻があるかどうか、それが問題だな」

「多分駆除されているぞ」

「そうかもしれないが」


 とりあえず探してみることにしようと思って、ふと思い出した。


「あ!そうだよ!思い出したよ!」

「何をだ!」

「あったぞ」

「そんなはずはないだろ」

「明日の朝一で回収だな」


 俺は元彼女によく似た女性の横で寝ることにした。ああ、布団が、布団が恋しい。アフィラムはまだぶっ倒れている。一体何だったんだよさっきのは。なんで倒れているのかこいつは。一応刺さないように手を縛っておくか。


 ---


 目覚めたらまだ二人とも寝ている。仕方ない。まずは例の海藻の回収である。


「おい包丁起きろ。今から回収いくぞ」

「……何故寝ていると分かった」

「かん」


 冗談を飛ばしながら、海藻を回収しに行く。回収と言っても、そんなに難しい作業が必要なわけじゃない。何せ連中、海藻をゴミ捨て場に投げ捨てていたのだから。まぁ海藻なんて食うのは日本人くらいだから、邪神連中の処置が間違っているかというとそんなことはないと思う。むしろ日本人って連中が間違ってるだけで。


 果たしてゴミ捨て場で、もじゃもじゃした海藻をあっさりと見つけることができた。マクリだ。よっしゃ。


「さてと、回収は出来たが1つ問題があるんだ」

「何だ?クスリにするための処理法がないとかなのか?」

「ぶっちゃけ、不味い。個人的な主観だが」

「おい」


 冗談めかして言ったが、事実であるのが困る。マクリ自体は沖縄などで食用とされるものだが、どちらかというと、美味を楽しむというよりは虫下しの代わりであり、そう美味いものではないようだ。


「口直しの一品が欲しいな」

「口直し」


 昆布のようなものも見つけたのでこいつを出汁にとって、何かでお吸い物を作りたい。お吸い物に相応しい邪神でも現れたらいいのだが。


 とりあえず、めぼしい邪神しょくざい邪神壁しょくひんも見当たらないのが問題だが仕方ない。最悪口直しには昆布の出汁でも飲ませようか。そんなことを考えながら、例の小屋に戻る途中で磯臭い匂いを感じる。


「お吸い物の邪神しょくざいでも出てくればいいんだが」

「そんなものが存在したらこの世の終わりだ」

「ならとっくにこの世は終わってそうだが」


 見ると、巨大な貝のようなものが砂地に横たわっていた。


「なんだよ、死んでるのか?」

「……邪神のお吸い物は出来なかったか」

「こいつは結構吸い物向きなんだがなぁ」


 普通よりははるかにでかい代物だが、こいつはシャミセンガイである。今の一般的な貝よりも原始的な構造の貝だ。煮付けなどにする他、お吸い物などにもする。水質汚染に弱いため、日本ではかなり生息地域が減っている。


 俺がヤツの死骸に背を向けて立ち去ろうとしたとき、猛烈な違和感を感じた。何故、死骸から磯の香りがする?何故、いきなり死骸が出現した?


 ……振り向きざまに包丁を一閃する。


「そっちの三味線か」

「本来のシャミセンガイの生態にはないぞ」


 まぁ邪神だからな。生態に差異があるのは不思議なことではない。この地獄のような生態系で生き延びるには、五感…いや第六感、第七感セブンセンシズ阿頼耶識エイトセンシズ…確か11識くらいまであるんだよ仏教的には、とにかく全部活用しないとムリである。


 そこまで全部活用して、結局やることは捕食っていう生物の基本である。基本は大事だけどな。持ち帰ってお吸い物にしよう。こいつのほうはかなり美味い方だと思う。

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