第11話
※寝取られ描写があります。嫌いな方は飛ばして頂きたいと思います。
意識を失いながらも、俺はあの日の苦い記憶を思い出した。まるで夢を見ているかのようだ。
俺が住んでいた部屋には、出た。出たと言っても出たのは幽霊などではない。よりによって邪神が出る。不動産屋も特に何も説明してくれなかった。まぁ事故物件でなければ幽霊が出ようが邪神が出ようが、説明する責任はないだろう。
そうは言ってもうっとうしいものだ。海の近くでもないのに磯臭くなる。別に磯臭くなるのは気にならないが、海産物が食いたくなるのでイライラする。一種のメシテロだ。ふざけんな。だが、邪神は殴ることはおろか触れることもできない。もっとも向こうも触れられないようであったが。
そんなある日、俺は1人の老人に出会う。老人は剣道道場を開いていると言う。そんな老人に言われたことは、
「お前は邪な神に狙われている。今のままでは勝てない」
ということだ。老人は俺に剣技を教えるという。曰く「神に会っては神を斬り、鬼に会っては鬼を斬る」為の剣だという。ひとまず基本の技を一年ほど学んだ後、うちに出現した邪神を斬ってみた、家にあった包丁で。割とあっさり斬れたので、それ以降うちが磯臭くなって俺が空腹に襲われることはなくなった。
さて、海産物が大好物な俺だが、普通に適齢期の女の子も大好きだった。某精神科医的な意味では全くないので、人類各位は安心してほしい。
普通に好きな女の子が出来て、なんとなく告白とかして、一緒に遊んだり部屋で過ごしたりした。だが、どうも変だなと思っていたこともなくはない。自分で言うのもなんだけど、仲良くしてたのに中々最後の一線超えさせてくれない。身持ちが硬いのかなと思っていたが……。
その日、俺が部屋に戻ると、俺の部屋で俺以外の男と、俺の彼女が激しく前後運動をしていた。言うまでもなく運動をしていたわけではないからな、言わせんなそう言うことだよ!
もっともこれだけなら俺が女性不信になる程度で、稀によくある現象である。俺の部屋の、あぁ、窓に、窓に、久しぶりに一体の邪神が現れていたのを除いてはな。
しかもよく見ると、邪神が俺の彼女と間男の延髄あたりに触手をくっつけていた。操作してやがったのか?何やってんだ邪神!本当に邪神と言わざるを得ないだろ邪神!!俺に怨みがあったのか邪神。まぁあるよな斬られたりしたら怨みは。だからってそれはねぇよそれはよ!当然のように俺は邪神を包丁でぶった斬った。ああ斬ったよ豪快に斬ったよ!
しかしその瞬間、俺はよりによってまだ生きていて邪神に操作されていた彼女に、瓶で後頭部を殴られ意識を失ってしまった。どうも邪神は意識を失った人間でないと、自分たちの世界に引きずり込んだり捕食したり出来ないようである。
クソ、そんな理由だったのかよ!間男と彼女は元々出来てたのか邪神のせいなのかは今となってわからない……
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そんなところで目が覚めた。気分は最悪だ。いったい俺はどのくらい寝ていたのだろうか?なんだろう、腹が減っている。腹が減ると腹が立つ。磯の香りが強くなってきた。この俺の憤りはどこにぶつければ良いのか?
俺は包丁を握りしめ、外に飛び出した。一体のシャコと人が混ざったような格好の邪神がそこにいた。俺は即座に理解した。こいつは……強い。しかもこれまでの中で一番。
ご存知の方も多いとは思うんだが、シャコというのはかなりの強力なパンチを放つ。水槽にシャコを入れておくと、水槽のガラスすら破壊されることがあるという。しかも僅か10センチ程の体長のシャコがだ。
また、感覚も優れている。知覚に長け、相手がどこにいるのかの把握能力が大変に高い。全身が高感度のセンサーで覆われているのだ。
俺は、動かない。
シャコも俺の隙を狙っているようだ。正統派の邪神なのだろう。前のエビと似ている気がする。こいつは生粋のボクサータイプだ。記憶を戻す前の俺だと、俺が襲いかかって即座にやられていたような気がする。
調息。
息を整え、身体を軽く動かすために脚を低く構える。本来の日本の剣道にはあり得ない足の運びをする。中国拳法の流れを汲んでいるのだろうか。
師匠の言葉を思いだす。
「動かない相手に攻め入っても、カウンターっていうのか今は、を狙われて返り討ちにあう」
「はい」
「そこでだ、攻め入るフリをして相手を動かすのじゃ。カウンターで逆に返り討ちにする」
「しかし、それは相手がどういう動きをするかわかっていることが前提では?」
「相手に攻め入るフリをする際に、ワザと狙いやすいところを作るのじゃ」
「なるほど」
難易度は高いだろうが、こういう相手には他に手はないだろう。勝負を決めるにはこれしかない。自分の身体を餌にするというワケだ。シャコのパンチが狙いやすいところに、頭を持って行き、上段から包丁を振り下ろそうとする。
シャコのヤツがパンチを放つ!速い!ステップバックじゃ間に合わない、クソ!スウェーでかろうじてシャコの一撃を皮一枚で躱す。頬が切れた。直撃ではないが痛い。
咄嗟に間合いを離す。ここまで強いのかこいつは!
「おい!大丈夫か!」
「こいつは想像以上に強いな!」
「当たり前だ!こいつに勝ったニンゲンをまだ私は知らんぞ」
「そんなに強いのかよ」
頬から流れる血を感じながら、俺は次をどうするか考えている。ヤツは俺がパンチを警戒していると思うだろう。それを利用しよう。
回り込むフリだ。
ヤツの左手に回りこもうとする。当然のようにこちらを見ている。そうだ、よく見ろよ。俺はここにいるからな!
先程と同様俺はヤツの餌に頭を出そうとする。高速かつ高威力のパンチが来る!そこだろ!ヤツのパンチに対して、俺は包丁を振り下ろした。
……シャコの拳を真っ二つにしてやれた。そのまま返す包丁で、ヤツの胴体を叩き斬る!その瞬間、シャコが反対の拳を突き出して来やがる。
まともに食らったら胴体に風穴が開くところだった。しかし、ヤツの上半身は最早下半身から斬り落とされた後だった。空を切るパンチ。
「分厚い一瞬の差だったな」
「あぁ」
早速シャコのハサミパンチから頂く。加熱もいいが、こういうのは生が美味い。寿司ネタにもなるシャコだが、湯引きしていることが多い。新鮮なら生でもイケるとは思うが。
「個人的な好みだが、前のエビより美味いな」
「評価するなよ」
朝飯がわりの採れたてのシャコは、美味だったが、少しだけしょっぱい味もした。しょっぱい味は俺の涙だ。記憶を戻し、生き延びた代償は塩辛い味か。
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